「…っ!!」


この手の見世物に、ドッキリ要素や生死が危ぶまれているような演出は付き物である。

ビビり体質である遥は、視覚的にも聴覚的にも驚かされる度に毎回丁寧に反応してしまっていた。

何度も身体を跳ねさせ息を飲んでいることに気付いていた高尾は、暗闇の中彼女の肩に腕を回して自分の方へ引き寄せる。

動揺からか遥が身じろいだのが分かったが、安心させるように肩を撫でると意図を理解したらしい。

擦り寄るように高尾の服を掴み、ステージに熱い視線を送っている。


(あーもーマジ役得)


邪な想いを余所にサーカスは佳境を迎え、すぐに彼も割れんばかりの拍手を送る一員となった。









「あんなに凄いとは思わなかったなー」


興奮冷めやらぬ様子の遥は、購入したばかりのサーカスのパンフレットを胸の前に抱きながら言う。

薄暗くなってきた通りを行きとは反対方向に歩きながら、高尾もすぐに同意を示した。


「お友達サンには悪いけど、観れて良かったっす」


語尾に喜びが滲んでいる辺り、遥が真横にいるという今の状態にも、高尾は満足しているようだ。


「いい人といい時間過ごせたし、いい話聞けたし、いいモン見れたし───何か美味いモンでも食いに行きます?」

「何処かいいとこ知ってる?」

「んー、イタ飯屋ならこの近くにあるっすよ」

「せっかくだし、高尾くんオススメのところがいいな」

「じゃ、そこにしましょ。味結構イケるんで」


またもさりげなく遥の手を引くと、高尾は先導するように歩き出した。

部活がなくなり、友人にも振られ、退屈すぎる日曜日を過ごすはずだったのに、注目していた他校の先輩とちゃっかり夕食まで一緒に出来るのだ。

今日1日を思い返してみても、彼の胸には爽やかな気持ち良さしか残っていない。

様々な意味で癒され満たされている彼は、やや吊り上がった瞳を細めた。


(今日残された時間をめいっぱい楽しんで)


その下の唇は弓形に。


(明日朝一で真ちゃんに報告したら、どうなるんだろーなー)


二重の意味で喜びを噛み締めている高尾だったが、すぐに思考を別の方へ向け始めた。

明日のことではなく、今のことを考えることにしたのだ。


「遥サン」

「ん?」

「オレたち一応ライバルじゃないすか」

「うん、部活で見るとそうなるね」


遥は、自分より少し高い位置にある高尾の瞳を見つめると頷いた。


「でも、これからも色々相談したり───仲良くしてもらいたいなーなんて」


繋いでいる手の力を少しだけ強め、遥は微笑む。


「もうお友達だもんね」


言葉が素直に胸に染み渡るのを感じながら、高尾も少しだけ強く手を握り返した。




少年Tの爽快


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