「や、今日はオフっちゃオフっすけど……」
高尾はもう1度、手元の優待券に目を落とす。
この1枚で2人まで入場出来、勿論入場料はかからない。
更に有効期限は今日まで。
友人が行けなくなったから私も、という考えで高尾に譲ろうとしたのだろうが、彼はこのチャンスをみすみす逃す程奥手ではなかった。
「あ、じゃあオレとデートなんてどうすか?」
「え?」
今度は遥が驚く番だ。
「ほら、遥サンが観に行かないと、そのお友達サンにも悪いんじゃないかなーって」
「"誰か暇な子呼び出して、私の分も観てきて"って言いながら帰ったけど……でもいいの?」
「え、何が?」
「真太郎と約束あるんじゃないの?」
途端、高尾は盛大に吹き出して笑い始めた。
「はははは!そうっすね、そうだったら良かったんすけど、今日アイツにはフラれてるんで。オレらで楽しみましょ」
遥の手を取ると、返事も聞かぬまま高尾は歩き始める。
身長差から引き摺られそうになりながら、遥は慌てて横に並んだ。
(あーあ、真ちゃんかわいそー…デートしたなんて言ったらぜってー悔しがるわ)
様々な意味で舌なめずりせん勢いの高尾は、自然に手を絡めたまま少し低い位置にある遥を見る。
「始まるまでまだ時間あるけど、どっか行きたいとこあります?」
「私は特には…。高尾くんは?」
一見カップルのような会話をしながら、2人は人々でごった返す大通りを抜けていった。
酔いそうな程人通りが多いのは休日のせいだけでなく、もしかすると少し先で催されているサーカスの効果かもしれないが、このまま此処で待っていても疲れるだけなのは明らかだ。
それなら、興味のある店に入るなりする方が余程賢いように思われる。
「んー、オレも特には。じゃあスポーツショップで時間潰しましょうか」
お互い共通のものと言えば、やはりバスケット。
大型のスポーツショップに入るなり、2人はこの商品がどうのあのブランドがどうのと、時間も忘れて熱く語り出した。
遥は年上のマネージャーとして、高尾はキセキとチームメイトのプレイヤーとしての観点での議論は互いに刺激的だったようで、店を出る頃にはすっかり打ち解けてしまったようである。
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