階段を下っていた遥は、踊り場から1つ段差を下りたときに足を踏み外し、ちょうど階下にいた火神の元へダイブすることになったらしい。
(オレがいなかったらマジでセンパイヤバかっただろ…)
半階分の階段全てを飛ばして落ちたのだから、下に火神がいなければ笑い話では済まなかっただろう。
本人は何事もなかったかのように振る舞っているが、最悪命に関わっていたかもしれない。
(って、もしかして──)
火神は頭に浮かんだ疑問の答えを探るように、セクハラの如く入念に自分の制服の汚れを払ってくれている遥を見た。
時々相槌や礼を述べて遥の好きにさせている間に、素早く腕と足に目を走らせる。
少なからず好意を抱いている先輩が近距離にいて、更に汚れを払うためとは言え自分に触れているという耐え難い状況であること、また周りの生徒からの痛い程の眼差しは、既に彼の脳内から消えていた。
(…腕は大丈夫か)
自分のものよりは遥かに頼りなく見えるが、健康的な白さと細さである手首は両方共良く動いているようだ。
続いて、身長差から首が苦しくはなるが、もっと下へ目を向ける。
現在大きく動く必要がないために一見したぐらいでは分からないが、重心が常に左足にあるように思われた。
「センパイは怪我してねーのかよ……ですか」
「え?うん、火神くんがいてくれたから大丈夫だよ」
柔らかく目尻を下げて遥は微笑んでみせる。
火神は、同じバスケ部の降旗たちが、以前彼女を天使だの女神だのと騒ぎ立てていたことを思い出していた。
(こーゆーの、ヤマトナデシコって言うんじゃねーの?)
火神が訝しげに己を見下ろしていることに気付いた遥は、事態を把握出来ずに首を傾げてみせる。
「どうしたの?火神くん」
「保健室行くっすよ」
「え……っ!?」
背中と膝裏に火神の鍛えられた腕を感じると、次の瞬間には目線が高くなり、遥は自然に近くの首へ縋り付くこととなった。
より近くなった距離に、火神の顔は少々困ったように歪むが、頬は正直に赤みを帯びている。
「私は大丈夫だよ?」
「念のためっすよ。部活でセンパイいねーと何かいつもとちげーし」
空腹を訴える腹を無視し、火神は保健室へと歩みを進め始めた。
「センパイにはゴーインにいった方がいいみたいだしな」
She is neither an Angel nor a Goddess───She is a graceful Japanese woman!
「まだパン残ってるかな?」
「大丈夫だろ……ですよ。多分」
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