(日常)退屈でしかない授業を行っていた教師が、次回までの課題を指示した後教室から出ていく。
それを待っていたかのようなタイミングで昼休み開始のチャイムが鳴ると、火神は席を立った。
目指すは売店だ。
例の日ではないため、焦らなくても目当てのものは手に入るだろうと、ポケットに両手を突っ込み特に焦る様子もなく歩き出す。
(腹減った…)
騒がしくなり始めた廊下を抜けて階段に辿り着いた、そのときだった。
「きゃ…!!!」
高く短い悲鳴が聞こえたかと思うや否や、火神に向かって何かが降ってくる。
逆光になってしまってはいるが──────ヒトだ。
「なっ!?」
バスケで培った反射神経で咄嗟にそれを受け止めたが、反動で尻餅をつく。
別に人が大きかったわけでも重かったわけでもなかったのだが、突然降ってきたものを無意識に庇うように受け止めたせいで、それなりの勢いで座り込んでしまっていた。
1つ大きく息を吐くと、火神は腕から零れ落ちることなく自分の上にいるそれに目をやる。
「オイ、アンタ────って七瀬センパイ!!?」
腕の中で安堵の息を漏らしているのは紛れもなく、バスケ部の先輩でマネージャーの、遥。
「何でセンパイが降ってくるんだ……ですか!?」
火神は驚いた表情のまま、遥が降ってきたであろう階段上の踊り場と彼女を交互に見つめている。
そんな火神にはお構いなしで、遥は腕から抜け出し立ち上がった。
「ビックリした…火神くんがいなかったら大変なことになってたかも。ごめん、ありがとね。怪我してない?」
自分のせいで尻餅をついていた火神に、手を差し伸べながら言う。
「オレは大丈夫っすけど…」
恥ずかしさからか、躊躇いがちにその手を借りると火神も立ち上がった。
並ぶと、2人の身長差や体格差が良く分かる。
「ってそうじゃなくて!」
「選手を怪我させるマネージャーとか有り得ないしね、怪我ないなら良かった。重かったでしょ?」
何処かズレた答えしか返ってこず、上手く話を流された火神は項垂れた。
「センパイぐらい重くなんかねーよ……ですよ。それより何で降ってきたんだ……ですか」
力無く放たれた問いに、遥は目を丸くした後苦笑する。
「階段の一歩目で足踏み外しちゃったんだ」
「………マジかよ……」
再度火神は項垂れた。
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