「買い出しは明日頼むな」
「うん」
「んじゃ、帰るか」
「疲れてるのに手伝ってくれてありがとう。お礼に送って帰るね!」
「だアホ。大人しく送られて帰れ」
外はもう真っ暗で、すっかり夜の気配を漂わせていた。
4月の頭、まだ肌寒さが残る今の時期、日が暮れてしまうと大分冷え込んでしまう。
明日天気が悪いのか、今日は特に冷え込みが強かった。
日向は首を縮めて身を震わせると、少しだけ後ろを歩く遥に目を向ける。
俯き気味に歩いているのは、寒いために身を縮こませているからだろう。
「結構寒いな」
「カイロ欲しいね」
「それ言いすぎだろ」
答えながら、日向はまた身震いした。
すると、制服の背を引っ張られる感覚。
「七瀬?」
この状態で制服を引けるのは遥だけだ。
何事かと日向が振り返ると、今度は手を引かれた。
「順ちゃんの手、冷たいね」
「な…っ!」
日向の手を包むのは温かい2つの手。
自分のものより温かく細く華奢であるという感想より先に、恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまっていた。
1年時よりずっと勘違いされているが、日向は遥にチームメイト以上の感情を抱いている。
激しく勘違いされているという致命的な問題は勿論、何処かズレている遥へのアプローチはややハードルが高い。
そのため日向はいつも"残念キャラポジション"に甘んじていたのだ。
「お前ホント…………いや、やっぱいいわ」
一気に体温が上がったおかげで、寒いという感覚は何処かに吹き飛んでしまったようだった。
遥の手を離すことなくしっかり繋ぎ直すと、遥は嬉しそうに付いていく。
未だに赤さを残す日向の頬が緩んだ。
「明日の買い出し、オレが一緒に行く」
「さすが主将だね!ありがとう順ちゃん」
「…おー」
自然と笑顔になる2人の話題は、もうじき入ってくる1年生のことになった。
バスケ界では有名なキセキの世代と同学年。
まさか彼らが入学してくることはないが、待ち遠しいことに変わりはない。
今年は楽しくなりそうだ───と日向の手に力がこもる。
繋いだままだった手に力が込められたことに気付いた遥は、日向を盗み見ると優しく微笑んだ。
この数日後、とんでもない1年生に驚かされることを2人はまだ知らない。
早くあたたかくなあれ
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