「オムライス…?」

「はい…勿論七瀬先輩が良ければ、ですけど」


眉は八の字を描いているものの、手はしっかり繋がれたまま控えめに遥に訴えかけている。

たかがオムライス、されどオムライス。

突き詰めれば奥が深すぎる定番料理を一緒に作りたいとは、一体どんな風の吹き回しかと周りからはツッコミが入ったが、泣き出しそうに揺れた双眸に真っ直ぐ見つめられた遥は小さく頷いてみせた。


「私はいいけど…オムライス好きなの?」


花が綻ぶように表情を緩めた桜井は力一杯頷き返す。


「大好きです。だから七瀬先輩と美味しいオムライスを作りたくて」


何が"だから"なのか。

この意味を汲み取れなかったのは、渦中の遥だけだった。


「絶対美味しいと思うんです。毎日食べたくなるぐらい」

「…たまにはオムレツにしないと飽きちゃうかもね」


憧憬を込めた儚い笑みは遥の心を揺らしはしたが、核心部の扉を叩くことはなかったようだ。

少しズレた回答にも、桜井は気にすることなく"自分が何とかしてみせる"と胸を張っている。


「俺のために毎日味噌汁を、じゃなくて毎日オムライスか……オ、ムライス…大村イイッス…」

「伊月、それもう意味分かんねーから」


いつもの伊月のボケに日向がツッコミを入れたところで、今度は別方向から声が飛んできた。


「遥のオムライスは美味いが、味噌汁はもっと美味いぞ。まぁ遥の料理にハズレはないさ」

「…えっ!?」

「ありがとう、鉄平」


何故か堂々と宣言する木吉。

ショックのあまり涙目で固まる桜井。

嬉しそうにはにかむ遥。


「ややこしくなるからオマエは話に入ってこないでくれる!?そんで謝りキノコはさっさと帰れ!!」

「ややこしくはしてないぞ、日向。オレは事実を言ったまでだ」

「それが話をややこしくするっつってんだろーがダァホ!!」

「ボク、負けませんから」


肩で息をしながら日向は項垂れた。

一向に解決しない。

その頃渦中の遥は、視界に入った後輩に手を振って別れを告げていた。


「あ、テツヤと火神くんだ。お疲れ様ー。気を付けてね」

「っす」

「お疲れ様です。お先に失礼します」


その後カントクが合流して漸く話が進むのだが、それまで自由きままに有らぬ方向に話は飛散し続けるのだった。




出待ち〜桜井の場合〜

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