ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
そんな音が聞こえてきそうな険悪なムードの狭間で、遥は1人おろおろしていた。
ちなみに何メートルか後ろで水戸部も同様におろおろしているが、隣にいる小金井は当事者ではないからと対照的に楽しげである。
「もー大丈夫だって!水戸部は心配しすぎ」
「そりゃ大丈夫だろうけどさぁ、コガ。何回目だよ、七瀬が他校生に出待ちされるのって」
「えー?月1ペースぐらいだから…」
水戸部の代わりに、土田は呆れたように溜め息を吐いた。
事の発端はこうだ。
いつも通り部活動を終えた誠凛男子バスケ部一行が校門を出ようとすると、そわそわと落ち着かない様子の男子高校生と遭遇した。
大人しそうなその可愛らしい容姿と制服に見覚えのあったバスケ部の面々は口を揃えて彼の名を発したのだが、当の彼はただ1人以外アウト・オブ・眼中のようで、一目散に駆け寄ってきたのである。
───誠凛男子バスケ部マネージャー・七瀬遥の元に。
そして試合をしてからすっかりライバルとなっている日向とこうして火花を散らしている、というわけだ。
「オマエが七瀬に何の用だよ謝りキノコ」
「日向さんには関係ないじゃないですか」
片やクラッチタイム、片やブラックタイムなSG同士の啀み合いのせいで、遥の周りは混沌とした空気に包まれている。
「もう、順ちゃんも桜井くんも試合じゃないんだし…怖いからストップ」
唇を尖らせ不満げだった桜井は、その声を聞いた途端表情も思考もくるりと変換して遥と向き合った。
すっかりいつもの弱気な彼の姿ではあるが、遥を見つめる瞳は真剣そのものである。
「七瀬先輩っ」
「はい」
その剣幕に、遥は思わず背筋を伸ばして返事をした。
桜井は自分の胸の前でそわそわと手を動かしていたかと思うと、次の瞬間意を決したようにそっと遥の両手に触れた。
「あのっ…スイマセン、その…」
その手に優しく力を込められ、遥はただじっと彼の言葉を待った。
最初は啀み合っていた日向も、舌打ちをしながら次の行動を待っている。
しかし暫しの沈黙後発せられたのは、意外すぎるお誘いだった。
「今度、一緒にオムライス作って下さいっ」
頬を淡い桃色に染めた桜井は、静寂を裂くと90度に頭を下げる。
その姿にきょとんと固まったのは、勿論遥だけではない。
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