運動部で選手として活躍する中学生男子と、運動部で補佐役として活躍する中学生女子とでは、体力は天と地程に異なる。
2人が階段を上りきったとき、遥は膝から崩れ落ちんばかりにバテてしまっていた。
「結構あったね」
「これはキツいな」
木吉も額に滲む汗を拭いながら乱れた息を整える。
難所を越えた2人の前に聳え立つのは、少しくすんだ朱色の大きな鳥居。
そして狛犬の奥に悠々と鎮座しているのが目的地だ。
此処までの道のりも、日中にも関わらず薄暗く涼しかったが、鳥居から一歩敷地内へ入ってしまえば更に別世界に入り込んでしまったかのように空気が変わった。
恐る恐る導かれるかの如くまずは手水舎で見様見真似で参拝準備を済ませると、拝殿で必勝祈願。
勢いで行ったはいいものの、正しい参拝の仕方など知らない2人は此処でも見様見真似で拍手したが、後に遥や後輩を雁字搦めに縛ることとなる"勝利"を祈り、真摯に頭を下げた。
例えまだまだ幼い少年少女とは言えど、バスケに向き合う姿勢、勝利のためにやることはやるという決意に嘘偽りはない。
「…やるからにはとことん全力で、だよね」
「ああ。だから例え相手が帝光であっても負ける気はないさ」
「それはこっちもだよ」
長い道のりの目標を達成した2人は、これからどうしようかと顔を見合わす。
神社内をうろうろするのも好ましくないだろうし、かと言って此処までは一本道。
まさか、無法地帯をそれこそ無謀に冒険するわけにもいかない。
「ちょっと休憩してから帰るか」
「そうだね」
筋肉が張っているらしい脹ら脛をさすりながら浮き世離れした空間で一息いれようとした、そのときだった。
─────!
「え?」
「何だ今の音…」
両手を勢い良く合わせたような、パァン、という音が生い茂る木々の隙間から響いてきた。
そして背筋を駆け上る違和感。
何かあったわけではないし、別に森に誰かいても不思議ではないが、言いようのない恐怖に遥は静かに息を飲む。
神聖な空気から一転、どこか不気味に感じたのか、木吉も遥の背に手を添えそっと帰路を促した。
「遥、やっぱり雨降りそうだし帰るか」
「雨…?」
遥が目線を上へ移せば、先程まで垣間見えていた青は鈍い灰色へと姿を変えていた。
この様子だと、木吉の言う通りいつ雨が降ってもおかしくはないだろう。
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