遥の祖父母の家は、閑静な住宅街というより、都会の中の田舎という言葉が似合うような場所にあった。
所々に畑や田んぼも見えるその地域は長閑で、まだ自然も残るとにかく穏やかなところだ。
特徴的なのは、少し離れたところに見える濃緑。
その正体は、鬱蒼と生い茂る木々が連なるとても大きな森だった。
「あそこに神社があるんだよ。道も一本道だし、行ってきたらどう?」
遥の祖母曰く、あの大きな緑の奥には、この辺りでは有名な神社があるらしい。
必勝祈願に交通安全、受験合格などなど、とにかく"勝利"の神を祀っていると聞いて、まだ若い2人が食い付かないはずはなかった。
そして学校も部活も休みな日を使って、ジャージ姿で準備万端、神聖な森へと入っていったのである。
「ト○ロがいそうだよな」
「会っちゃったらどうしよう」
森の第一印象は、"有名なアニメ映画に登場する大きな生き物が住んでいそうな森"だった。
空が見えない程の緑のおかげで薄暗くひんやりとした中を、石畳を頼りに歩いていく。
道しるべはこの石畳だけだが、逆に言えばここ以外は木がただ自然に生えている無法地帯であり、まさに紛れもない一本道。
坂もそこまで急ではなく、穏やかな一本道をひたすら歩いていくだけなため、まだまだ体力の有り余る年齢の2人は余裕綽々だった。
「此処がもうちょっと近かったら散歩コースにするのに」
「遥の家からは結構あるもんな」
「うん。静かだし、いい感じなんだけど。マネージャーって言っても私もバスケ部だから、運動はしておきたいんだよね」
「毎日此処までこれなくても、帝光の方にはデカい公園もストバスコートもあるだろ?」
「あるけど…何か此処の雰囲気が落ち着くって言うか」
仰ぎ見る空は、黒い木々に阻まれ一部しか見ることが出来ない。
白く光る太陽すら覆い隠してしまうこの森にいると、時間はおろか世界すら分からなくなってしまうようだ。
「…思ったより歩くかも」
薄汚れたスニーカーで人工的に整えられた道を進む。
バスケの話ばかりをしながら歩き始めてどれぐらい経っただろうか、漸く石で出来た階段が見えてきた。
「この先が神社だよね?」
「だろうな。いかにも神社って感じだ」
上が見えない程長い階段はかなりの段数だろうが、これを上りきれば目的の神社のはずだ。
「遥」
「ありがとう」
差し出された大きな手に自らの手を重ね、遥は足を踏み出した。
← return →
[3/6]