「懐かしいな。これなんか遥に初めて会ったときのじゃないか?」

「そうそう。帝光入ったばっかのときだもん」

「結局さー、2人ってどーゆー関係なの?」


皆の疑問を代表して発したのは小金井である。

ぴたりと一瞬空気は止まり、渦中の2人は互いに顔を見合わせた。


「どーゆーって言われても、遥のじいちゃんばあちゃんとオレのじいちゃんばあちゃんが知り合いってだけだよ」

「同じ老人会に参加してるから、良く会うみたいで。同い年の孫がいるって意気投合したんだって」


そして中学入学したての春に孫同士が出会い、バスケで意気投合し、今に至る。

御伽噺のような筋書きに羨望を抱きつつ、皆は再度写真に目を落とした。


「……ん?」


2人の成長を細かく記録したそれは笑顔のものばかりであるが、どことなく違和感を覚えた日向が首を捻る。


「どーした日向」

「いや、オマエら2人いつもうっとーしいぐらい引っ付いてるくせに、この辺りの写真はヤケに離れてるなって」

「あら、ホントね」

「言われてみれば、確かに何か妙って言うか…」


納得したように、伊月は写真を指差した。

ぎこちない笑顔と、遠慮がちに空いた空間。

躊躇いが伝わってくる写真は数枚だけであったが、前後が前後だけにヤケに浮いてしまっている。

水戸部がそわそわし始めるのと同時に、遥がおずおずと口を開いた。


「ケンカしたとかじゃなくて、そのときちょっと色々あって…」

「ケンカって言うより…怯えてる?」


不安げに揺れている瞳を収めた写真と現在の遥が重なる。

助け船を出したのは、普段と変わらぬ様子で遥の頭を撫でた木吉だった。


「遥と一緒にいるときにオレが怪我したんだよ。遥のせいじゃないのに、ずっと気にしてた時期のなんだ」

「あれは私のせいだよ」


植え付けられた小さなトラウマは、一度芽を出せばみるみるうちに養分を吸い取り、大きくなっていく。

ちょうどその頃に撮られた写真だというのだ。


「オレを見る度泣きそうになってたもんな。どうしたら笑ってくれるのか悩んだよ」

「笑えるわけないでしょ」


拗ねたように唇を尖らせた遥だったが、気にする様子を見せない木吉は彼女の髪に指を滑らせると、不服そうな顔を愛おしげに覗き込んだ。


「遥は優しいからな」

「鉄平の方が優しいよ」


それはまだ、2人が今より幼く若く、出会って数ヶ月しか経っていなかった頃まで遡る。

真っ青な空が印象的な、暑い日のことだった。


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