屋上へ向かう階段は人気が少なく、ゆっくりと話し合うのに最適の場所である。

人目を避けるように足早に移動した日向は、此処まで来ると漸く遥の腕を解放した。

冷たい空気が漂う空間で対峙する2人の表情は、先程と変わらない。


「オレが過保護だっつーのはこの際認める。けどオマエも色々自覚しろ、色々」

「私子供じゃないよ」


遥は真っ直ぐ日向を射抜いた。

眉間に皺を寄せた彼の眼鏡の先の双眸も、遥を真正面から捉えている。


「ダアホ。そーじゃねーよ。オマエに万が一のことがあったら、オレが……オレらが困るんだよ」

「順ちゃんが心配してくれてるのは分かったけど、でも…」


日向の言葉を受けてもなお、遥の顔色は冴えない。

言葉の意味は分かるが、理解は出来ないのだ。


「だからって21時以降外出禁止とかないと思う」


"21時以降外出禁止"───これが今回の事件を引き起こしたキーワードである。


「部活でもそこそこ遅くなるんだから、予防はしとくべきだろ。ただでさえ変なの寄せ付けるしな」

「意味分かんないし。それに犯人捕まったんだから大丈夫だよ」


事の発端は2日前、遥の家の近所で起きた変質者出没のニュースだった。

負傷者などは出なかったものの、新聞にも取り上げられる程の騒ぎになった事件なのである。

日向がこのニュースを知ったとき、真っ先に思い浮かんだのが遥であり、それ故の21時以降外出禁止令だったのだ。


「大丈夫じゃねーよ。自分がどれだけクセ者ホイホイだと思ってんだよ」

「クセ者ホイホイ?」

「キセキにしろ無冠にしろその他にしろ…ホイホイ過ぎんだろいろんな意味で!」

「そうなの?」


ふう、と肺の中の空気を吐き出した日向は頭を掻いた。

当事者である遥に自覚はないようだが、一癖も二癖もあるキセキの世代や無冠の五将らが自ら接触してくるぐらいの人物なのだ。

そんな彼女が何も持っていないはずがないのである。


「とにかく!基本21時以降外出禁止希望!極力明るい道を複数で通ること!これ以上は譲れねー」

「大丈夫だって言ってるのに…順ちゃんホント全然話聞いてくれないよね」


先程より僅かしか条件は軽くなっていないのだが、とうとう遥も諦めたように溜め息を吐いた。

結局、"夜更かしは控えて、夜道は全力で気を付ける"でとりあえず折り合いがつきそうだ。

ちなみに、この後予想通りクラスに戻った2人はあちらこちらからあらぬ疑問をぶつけられ、断定され、話題の中心となるのだが、日向のオカンポジション卒業の気配に喜ぶ者もいたようである。

実際は反対にオカンに拍車がかかっているのだが───内容が内容なだけに弁解の余地はないだろう。

めでたしめでたし。




※2人は真剣です


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