「じゃあ夫婦だの恋人だの言われてる2人との水面下の三角関係も、当分動きは無さそうですね。まぁそもそも、その前に最優先事項でバスケがあるんですけど」
「鉄平と俊のことだよね?」
「こう見ると小金井さん、水戸部さんはどうしても劣勢ですよね。しかも2人共それに甘んじているような…」
「さつき?」
「それからここにカガミンにテツくんって強力な後輩が加わって…あ、でもカガミンはちょっと引いちゃうからいいとこ全部持ってかれちゃうんだよね。それなら兄貴分の氷室さんの方がよっぽど上手!」
「とうとう他校の辰也くんまで出てきたけど、これ何の話?」
後輩の口からすらすら飛び出すのは、遥と付き合いのある友人達のものばかりだ。
もはや言わずもがなであるが、桃井さつきの手にかかれば、遥の交友関係なんてあっと言う間に暴かれてしまうのである。
「やっぱり当分均衡状態が続きそうですね…誰かが踏み出せば崩れ始めるんでしょうけど、それすら計算通りみたいに、皆が皆自分の立ち位置をいい意味でも悪い意味でも理解して、認めて、割り切ってる」
さつきの表情が曇った。
彼女の脳内では今凄まじいスピードで凄まじい量の情報が分析・解析されているらしい。
そしてそれらが導き出した答えが、かの有名な"見えざる手"のような状態だったのである。
「言うならば全員にチャンスはある。行き着く先は一緒なんだし、こうなるともう赤司君ぐらいの人が出てこないと…それとももっと意外な人が舞台へ?」
遥はアイスティーを喉奥へ押し込んだ。
程良い甘さのそれは後味も良く飲みやすい。
「もう、さつきってば」
「すみません、つい夢中に…」
「一応私絡みってことでいいんだよね?」
ストローで無意味にグラスの中を掻き混ぜると、大きく角張った氷がカラカラと音を立てる。
それは人の賑わう店内では掻き消されてしまう程に小さい音であったはずだが、ずっと耳を傾ける立場であった遥には酷く軽快に届いた。
「先輩絡みの相関図と言うか、何て言うか…」
「相関図?"さつき→テツヤ"みたいな?」
"→"を空に描きながら言った瞬間、遥は"あ"と間抜けな声を上げた。
今日の重大な目的の1つを思い出したのだ。
「それで思い出した。さつき、テツヤの写メ見るよね?この間の練習のときに撮ったやつ」
「見たいです!」
間髪を入れず返ってきたのは、恋する乙女らしくキラキラと目映いピンクに輝く肯定である。
遥は苦笑を漏らすと携帯を操作し、先日の練習で後輩も含めて騒いだ際の一コマを表示させた。
「キャー!テツ君ステキ!」
携帯を食い入るように見つめる彼女の姿は、先程冷静に分析・解析をしていた人物とは思えない程に年相応のものである。
「私も次は温かいのにしようかな…」
そんな後輩を正面に、遥は暢気にそう独りごちるのだった。
A.S的相関図
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