険しい表情のまま、木吉は真剣な様子で仲間2人を見下ろすと訊ねた。


「電話………なのか?」

「「は?」」


電話じゃなかったら何なんだ。

2人の胸中に同じ文言が浮かぶ。


「いや、違うんだ」


日向は、差し出されるまま受け取った携帯に神経を集中させた。


『リコー!ちょっと待ってって、リコ!』

『向こうで…………遥は………』


遥らしき声が聞こえた後、カントクらしき女性が返事をした声が聞こえる。

加えてガサガサと雑音も聞こえてくるのだが、もしかしなくともこれは───


「勝手に通話になってる?」

「勝手に?」

「何かガサガサ言ってるし、カントクと七瀬の声が遠くで聞こえる」


日向の説明に、伊月は納得を示して頷いた。

どうやら、カバンの中でふとした拍子に携帯が操作され、木吉に電話をかけてしまっているらしい。

間違い電話というか手違い電話というか、とりあえずこちらから切ってしまっていい電話だとは思うが、自分で操作するのも躊躇われた日向はそのまま携帯を木吉に返した。

と、そのとき。


『あの、すみません、ちょっと───』

『─────、……だろ?いーじゃんか』

『…………だから、』


何やら不穏な空気を感じ取った木吉は、今にも終話しようとしていた手を止め、反射的にスピーカーへ切り替えた。

ノイズで聞き取りにくいが、遥の声と男性の声が聞こえてくる。


『───っ、嫌です…!』

『なんで?…………のに?』

『………やっ…………』


ただならぬ雰囲気に、顔を強張らせた3人は同じ結論に至っていた。

揃って目配せして飛び出そうとしたその刹那、救世主の声がそれはクリアに飛び込んでくる。


『遥から離れなさいこの変態っっ!!!!!』

『リコ…っ!』


電話口が何やらどんがらがっしゃんと騒がしくなった後、遥が嬉しそうにその救世主の名を呼んだ。

おそらく、何らかの理由でカントクに置いていかれた遥がカントク曰く変態に絡まれ、戻ってきたカントクがその変態を追い払った、というシチュエーションなのだろう。

大方ただのナンパだったのだろうが、遥が満面の笑みで嬉しそうにカントクに抱きつく姿が目に浮かぶようである。


『ありがとうリコ。カッコ良かった』

『ありがと。それより遥、何か変なことされてない?』

『大丈夫、腕掴まれたぐらいだから』

『掴まれた!?やっぱり誰か連れてくるべきだったわね…』

『大丈夫大丈夫。リコも女の子なんだから、もし次何かあったら一緒に逃げようね!』


命に関わるような事態ではないことに胸を撫で下ろした日向と伊月だったが、小さく呟かれた木吉の一言に別の意味で凍り付いた。


「そうか、最大の敵はやっぱりリコなんだな」


抗議するべきなのか否か───勝負の行く末はまだまだ分かりそうにない。




lch weiss nicht was soll es bedeuten

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