(友情+プチ逆ハー)
その日は珍しく、誠凛バスケ部カントク相田リコと、同じくマネージャー七瀬遥が2人揃って不在の日だった。
たまたま近くで、ダークホースと呼び声高い学校の練習試合が行われるということで、偵察に行っているのだ。
更に、某大型薬局のまさかの閉店売り尽くしセールも重なってしまったため、丸1日不在コース確定、本日の練習は自主練になったというわけである。
「もうそろそろ薬局に移動する頃か…」
体育館内に取り付けられている丸い時計を眺め、日向は流れる汗を拭いながら言った。
何本撃ったか分からない3Pは、先程から連続で入り続けている。
「…夕方からって言ってたし、そうだろうな」
床に散らばったボールを拾いながら伊月が返した。
やや呼吸が乱れているのは、日向が話し出すまでひたすら高度なハンドリング練習を行っていたからである。
「つか何かあっちの方さ、最近事件起きたんじゃなかったっけ?」
「通り魔殺人未遂事件だろ?女子学生ばっか襲う」
ぴたり、と2人の動きが止まった。
比較的最近目にしたニュースが頭を過ぎり、嫌な予感が瞬く間に広がっていく。
「2人共どーしたんだ、そんな怖い顔して」
空気が強張ったのに気付いたのか、首からタオルをかけた木吉が口を挟んだ。
どこか抜けているようで頭の回転が速い彼は、2人の話を聞くと安心させるように笑みを見せた。
「一応電話するように言っといたから大丈夫だろう」
「電話?」
「リコが大量にプロテインを買うのはわかってるし、女子2人に荷物持たすわけにいかないだろ?」
日向と伊月は動揺を露に目を見開く。
実家がスポーツジムであり、多数のアスリートの成長過程を見てきている彼女が、偵察後の興奮状態でセール中のプロテインを見逃すはずがない。
そしてそのカントクを、あのお人好しな遥が止めるはずがない。
だから木吉は荷物持ち件ボディガードをするために、連絡を寄越すよう取り付けていたのだ。
様々な意味で、完全に一枚上手である。
「木吉…オマエ…」
「お、かかってきた」
日向がツッコもうとしたとき、ちょうど連絡がきたらしく、木吉は震える携帯を慣れた手付きで操作すると耳に押し当てた。
しかし彼は口を開かない。
「遥から?」
暫し押し黙っていたため不思議に思った伊月が声をかけるも、木吉は僅かに眉根を寄せただけだ。
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