「さつきちゃん、走るよ」
「え、はいっ」
男たちが疑問符を浮かべている隙に、遥は後輩の手を引き元来た道を走り出す。
「だから待てって!」
弾けるように少女2人を追った高校生たちだったが───刹那、彼らはそれはもう見事に直立不動となった。
彼女らの先、進行方向にとんでもない壁があったのだ。
色彩豊かなその壁は駆け寄ってくる2人を見て表情を綻ばせた後、その表情を一転させる。
「アラ?2人とも何やってんの〜?」
「さつきと遥……と、後ろの人ら誰?」
「先に帰ったはずの桃井がいるということは、そういうことなのだろうな」
「遥センパイ、いないと思ったら先帰ってたんスか!?」
口々に声をかけつつマネージャー2人を迎え入れながら、直立不動状態の男たちへ目線を送るのも忘れない。
今回と似たようなケースを経験済みである見目鮮やかな少年たちは、自然とボディガード役を買って出たのだ。
2匹の獲物追ってきた高校生たちに、まだ中学生と言えどスポーツマンらしく身長のある彼らと張り合う気は起きなかった。
「ふぅ…遥先輩、ありがとうございました」
微かに息を切らせた桃色の少女は、愛らしく安堵の吐息を漏らすと頭を下げる。
遥はゆっくり首を横に振ってみせると、彼女の向こう側を指差した。
「ううん、私は何もしてないから。ほら、向こうに黒子くんいるよ」
「あ、私行ってきます!テツくーん!」
「どうしたんですか、桃井さん」
漸く解放された喜びもあるのだろう、さつきは意中の彼へ甘えるように愚痴を漏らし始める。
やはり、彼女とここへ逃げ帰ったのは正解だったのだ。
見慣れた下校風景にとりあえず一段落だと胸を撫で下ろした遥だったが、次の瞬間別の意味で鼓動が高鳴ることとなった。
"一段落"───事件はまだ終わっていない。
少し後ろでこの光景を傍観しており、きっといちいち説明しなくとも全てを理解しているのであろう主将が、髪と同じ赤い双瞳を細めてみせた。
不釣り合いな程に随分と涼しげなその整った顔に浮かぶのは、"無"。
「少し考える必要がありそうだ」
こうして今日も、後に幾度と回顧することとなる中学校生活の1日が幕を下ろしたのだった。
refrain
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