空気は穏やかなのに、彼女を見ていると何て言うか、こう……自分の中の血が騒ぐって言うか、居たたまれなくなってくる。
多分、いつも人一倍そわそわしている水戸部がいないせいもあるんだと思うけど。
「あのさ、七瀬さん。上手く言えないんだけど…」
「うん?」
瞳を丸くさせ、頭上にクエスチョンマークを浮かべた七瀬さんは首を傾げた。
そうだよな、普通そうなるよな。
「何かあったら言ってほしい。聞くから…ってか聞かせて」
「………うん?」
ごめん、上手く言えなくてホントごめん。
「別に七瀬さんが嘘吐きって言いたいわけじゃなくて…」
「…うん、ありがとう。頼りにしてます。ツッチーくんも何かあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとう」
分かっているのかいないのか、七瀬さんは柔らかく微笑んだ。
一応は一安心なはずだけど、微かに残る胸のざわめきが完全に消えることはないのだろう。
「ツッチーくんだから言うけど、実はさっきね、その…告白されて断ったんだけど…」
「うん」
「…………」
先程の出来事を話してくれようとおずおずと口を開いてくれた七瀬さんだったけど、悩んでいるのかすぐに伏し目がちになって止まってしまった。
もしかしたらさっきの数分で、オレの想像以上のことがあったのかもしれない。
「……………やっぱり私、バスケが好きみたい」
「…は?」
「私が好きなバスケを頑張ってる皆が大好きみたい」
つまり、誰も選ばないってこと?───なんて野暮なことは訊かないでおこう。
答えは彼女の中にしかないし、オレがどうこう言えることじゃない。
でも、ごめん。
これだけは言わせてほしい。
「お父さんは許しません」
「?」
「お父さんは、許しません」
「??」
「何処の馬の骨か分からん奴に、娘はやれません」
「???」
例え同じバスケ部の奴でもそうじゃなくても、七瀬さんに彼氏が出来たって話を聞いたら、多分オレ正常じゃいられないと思う。
勝手に想像してるだけなのに、今既にキツいし。
「ツッチーくん、お父さんみたいって言うかもうお父さんだね」
「お父さんでいい。ってかお願いします」
オレは"娘"に頭を下げた。
父性が目覚めました。
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