(not恋愛)
それはおそらく、オレだけじゃなく誰もが抱いている疑問だと思う。
「七瀬ー?ちょ、まじアイツ何処行った!?」
「さっきDVDがどうこう言ってたけど…」
「じゃあ、部室?」
「遥ー」
誠凛バスケ部マネージャー・七瀬遥は色々な意味で、ちょっと……いや、わりと変わった人だ。
弱そうに見えて強くて、そのくせ儚い。
安心して物事を任せられるのに、視界に入っていないと心配になる。
そんな矛盾を抱かせる人物なのだ。
「ツッチー、七瀬ちゃん見てない?」
「見てないな」
「何処行ったんだろー」
男女問わず、いつも人に囲まれている彼女に好意を向ける者は多い。
誠凛バスケ部の面々は言わずもがなである。
勿論その"好意"の形は様々だけど───。
「あ、七瀬さ……」
マネージャーが行方不明と発覚して10分後、校舎裏というお決まりなところで彼女を見つけたオレは、飛び込んできたお決まりすぎるその光景に、慌てて言葉を切った。
彼女の向かいには、何組かは忘れたが同級生の男子生徒がいたからだ。
これが何を意味するのかぐらい、オレにだって分かる。
ちなみにこれから、彼女がどう返すのかも想定内だ。
「ありがとう。でもごめんね」
更にちなみに、この後彼がどう返すのかも想定の範囲内である。
「やっぱ伊月と付き合ってんの?それとも木吉?それかこの間一緒に居たっていう───」
うん、これが普通だよなやっぱり。
年齢性別問わず、分け隔てなく仲の良い彼女にこのテの噂はつきない。
八方美人と言うと聞こえが悪いし語弊があるけど、この言葉を使いたくなってしまうぐらい人を寄せ付ける体質なのだ。
だからこれはオレだけじゃなく、現状を知っている誰もが抱いている疑問だと思う。
何かと人々の中心にいるキーマン・七瀬遥には、何故特定の男性がいないのか───。
「あ、ツッチーくんだ」
「皆探してたよ」
「え、ごめん。ちょっと抜けるって話はしてたんだけど…」
話を終えたらしく、オレを見つけた七瀬さんが駆け寄ってきた。
部員の間ではちょっとした騒ぎになっているのだが、そんな状況を知るはずのない彼女は"のほほん"という言葉がぴったりな様子だ。
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