「なんか妹みたいよね、遥って。ほっとけないって言うか」
「大輝とさつきみたいな感じ?」
「…それは知らないケド」
手にしていたシャープペンシルの背を意味もなく数度ノックしながら、遥は言った。
「リコみたいなお姉ちゃんがいたら毎日楽しそう。景虎さんとのやり取りも目の前で見れるわけだし」
「パパも遥が娘なら喜ぶと思うわ」
相田リコの父・景虎の娘溺愛ぶりは、遥も含めたバスケ部員周知の事実。
娘を愛するあまり男子部員には厳しい彼も、娘の良き友人である女子マネージャーには甘いのである。
「まあでも、遥は"私の妹"って言うより"皆の妹"って感じよね」
「皆?」
大きく見開いた双眸を瞬かせた遥を見やり、リコは当然と言わんばかりに頷いてみせた。
バスケ部主将・日向を筆頭に、部員たちは何かと遥を気にかけているし、"皆の姉貴分"と言うよりは"皆の妹分"と言う方が適切に思われる。
しかし、当の遥は不安げに眉を下げ狼狽え始めた。
「もしかして、火神くんとかテツヤにもそう思われてるのかな…!?」
妹のように思われているのではないかと言われるのが、けして嫌なわけではない。
嫌なわけではないが、先輩として慕われているのかに関しては少々気にかかるところだった。
普段先輩と呼んでくれているにも関わらず、内心"頼りない"だの"手がかかる"だの思われているのでは、先輩としての威厳がなくなってしまう。
「……………それはどうかしら」
冷や汗を流さんばかりのリコは頬を引き攣らせ、すぐに言葉を返すことが出来なかった。
後輩たちは皆、遥を先輩マネージャーとして認めてはいるだろうが、それとこれとはまた話が別である。
年上だがしかし、様々な意味で目が離せない庇護欲を掻き立てられるような人物───これを一体どう表現すればいいのだろうか。
カントクとして、第三者の立場でその様子を見てきているリコとしても微妙なラインだ。
「リコの妹はいいけど、皆の妹はちょっと……」
とうとう論点がズレてきた。
真剣に考えるあまり沈んでいるらしい遥を見ると、リコは何かを思い付いたらしい。
頭上に浮かぶ見えない電球は、彼女だからこそ許される目映い光を放っている。
「じゃあ遥は私の妹ってことでいいじゃない」
「あ、そっか」
これで丸く収まると思ったリコだったが、次いで遥の口から飛び出したのは、予想していなかった逆接だった。
「でも、リコの妹だと親友にはなれないから、困っちゃうね」
面食らったリコの動きが止まる。
彼女が強張った表情を切なさ混じりに綻ばせたとき、今度は遥が不思議そうに目を丸くして固まっていた。
友達以上で家族未満
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