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「好きです」
ふと紡がれた言葉が、静まり返ったコートに響いた。
つい先程放ったばかりのシュートの弾みで転がっていったボールを拾い上げた遥は、耳に届いたその語句を確かめるように振り返る。
優しく目元を和らげた黒子はパスを促すように手で示した。
導かれるまま遥が投げた球体は、吸い込まれるように彼の手へ。
それを何度か地へ押し出してから、黒子は頭上高くに据えられているリングに向かい突き出す。
しかし、そのボールがネットを潜ることはなかった。
黒子のシュート成功率の低さは本人も自覚済みであるし、中学時代から彼を知る遥も勿論理解していたため、ある意味予想通りの結果である。
黒子は別段変わった様子も見せず、呟いた。
「……やっぱり好きです」
肝心な単語は隠されていたが、寂しげに転がっていくボールを目で追いながら、遥は賛同を示して頷く。
"大好き"でなければ今此処にいないだろう───胸の奥を少しずつ焦がしていくように燻ぶるそれは、日に日に大きさと勢いを増していた。
「だから諦めません。絶対に」
「諦めたら終わりだしね」
「はい」
巡り巡っての原点回帰はまさしく火に油、"恋という字は下心"とは良く言ったものである。
果たしてそれが比喩なのかどうかは、当人にしか分からないが。
「また遊びに行こうね」
「はい、こちらこそ是非」
何かを示すように力強い色で輝く黒子の双眸が、遥の記憶にある試合中に見せる真剣な彼の表情と重なった。
物事に真っ直ぐ打ち込む姿は自分より何倍も大きく、そして何倍も色濃いように思われる。
遥は思わず、ほんのり色付いている頬を緩めた。
そんな彼女の心境を置きざりに、黒子は手も丁寧に揃えて深々と頭を下げる。
「……これからも宜しくお願いします」
「え、どうしたの?改まって…」
遥の問いには答えず、顔を上げた黒子は柔らかく微笑んだ。
誓うかの如く明かされた意思が形として露になるまで、もう暫し時間がかかりそうである。
回転木馬
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