誰かに見られているような気がしたんだけど───とは口に出さずに、遥は再度手元の本へ目を落とした。
たまたま居合わせてしまった仲間たちのことなど、つゆ知らず、である。
そうして暫し本を眺めている間に、黒子は素早く会計を済ませたらしい。
遥は、購入したての文庫を鞄へしまっている彼をちらりと見やった。
「この後どうしようか」
狙っている洋服を見に行きたい、今日発売の新刊を買いに行きたい。
互いの目的を済ませた2人は、本屋を出てから行く宛がなくなってしまったのである。
辺りは暗くなり、もう街灯が点灯し始める時間ではあったが、帰るにはまだ少々早い時間だったのだ。
「どうしましょう」
疑問に疑問を返し、顔を見合わせる2人。
そして、ぱちくりと双眸を瞬かせると同時に口を開く。
「ストリート行こっか」
「ストリート寄っていいですか?」
2人揃って穏やかに口角を上げると、最寄りのコートへ向かい踵を返した。
「…遥先輩」
「ん?」
実際に目には見えないが、控え目に差し出された掌を眺める遥の頭上には、"?"の字がいくつも浮かんでいる。
黒子は手を差し出したまま続けた。
「ボクは影ですから」
自身のプレイスタイルも相俟って、黒子=影という等式は遥の中ですぐ受け入れられた。
がしかし、それとこれに何の関係があるのか。
遥の頭上に"?"が更に増える。
「もう暗いので」
「……?」
説明するように付け加えられた文句が遥に解答を与えることはなかったのだが、そんなことはお構い無しに、黒子は先輩の手を絡め取ると行きつけのコートへと歩き出した。
*
誠凛バスケ部のメンバーは、今すぐにでも叫びたい衝動を殺しながら息を潜めていた。
例の2人にまたも遭遇してしまったのである。
誠凛から足を伸ばしやすい位置にあるこのコートへやってきたのはバスケ部の面々の方が早かったのだが、マネージャーとルーキーが仲良さげに手を繋いでやってきたところを見てしまってからがこれまた別の意味で早かった。
勿論部員たちの中に、この2人に声をかけるという選択肢は欠片もない。
とりあえず2人の視界に入らないところまで避難したのはいいのだが、微妙に声が聞こえてしまうせいで彼らは大きく肩を落とすこととなるのである。
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