肩を並べて進み始めた2人は、まだ帰路につくつもりはないらしい。
見知った道をゆったりと歩きながら、遥は口を開いた。
「こうしてテツヤと何処か行くの、久しぶりだよね。最近はマジバに行く暇もなかったし」
中学時代は、学年を越えて仲の良かったカラフルな面々と、部活後によく寄り道したものだと、遥は懐かしげに瞳を細める。
日によって様々ではあったが、お気に入りのファーストフード店に繰り出すこともあれば、コンビニでおやつを買い込んだり、ゲームセンターで遊んで帰ることも少なくはなかった。
高校に入ってからもこのような寄り道はけして珍しいことではなかったが、今日のように時間がとれた日は久々だったのである。
「そう言えば、いつもの本屋でいいんだっけ?」
「はい。新刊が今日発売なんです」
あの作家がどうこう、今度の月バスがどうこうと話をしながら、2人はそこそこの広さを誇る大手本屋へと消えていった。
*
誠凛バスケ部の面々はほとほと困っていた。
バスケ部マネージャー・七瀬遥と期待のルーキー・黒子テツヤの放課後デートに遭遇してしまったため、好奇心故彼女らを遠巻きに少々眺めてから別のルートで移動してきたばかりだというのに、どういうわけか彼らの目の前には問題の2人がいるのである。
いっそ声をかけて合流してもいいのではないかという意見も出たのだが、2人が纏う淡い色の雰囲気をぶち壊すという決断は下されなかった。
普段影が薄く存在を気付かれないのが当たり前なぐらいな黒子も、今日という日はいつもより色彩鮮やかなようである。
そんな黒子の目当ての新刊と思われる本を見つけ、手招きして彼を呼ぶ遥に、手にしていた文庫を本棚へと戻してからその先輩の方へ向かう後輩。
別段珍しい光景というわけではないのに、何故か胃の辺りに妙な違和感を覚えたバスケ部の面々は、店内に大量に据えられている本棚で身を隠しながらその本屋を後にした。
*
「……?」
「どうかしましたか?」
手元の本から目を離し、遥は突如辺りを見渡し始めた。
隣にいた黒子がどうしたのかと訊ねるも、彼女は首を捻るだけである。
「気のせいかな…」
遥がいくら目を凝らしても、視界に入るのは大量の本棚と大量の本だ。
← return →
[2/4]