拒否を許さぬよう荒々しく、だが何処か丁寧に遥の顎に手をかける花宮。

顔の角度が変わり、花宮の底の見えない瞳と、遥の揺れる瞳が搗ち合った。

心境は蛇に睨まれた蛙と大差ないであろう遥は、息を殺し彼を見つめ返す。

対する蛇───いや、蜘蛛の如き花宮は、愉快そうに目を細めると舌舐めずりしてみせた。


「オマエが壊れちまえば、さぞ滑稽だろうな」

「─────!」


そのとき、空気を裂くように何の前触れもなく鳴り響いたのは、携帯の着信音だった。

無機質なそれに目を瞠り一瞬動きを止めた2人だったが、やがて花宮は音のする方を顎で示すと遥の顔から手を離した。

音のする方───肩から提げていた鞄を探る間も、着信音は鳴り続けている。

急いで携帯を引っ張り出してディスプレイに視線を走らすや否や、遥はより一層体を強張らせることとなった。

何故こんなにタイミングが良いのか。


「着信なんだろ?」


遥の様子に気付いた花宮は、わざとらしい笑みを口端に浮かべながら促す。

頭のいい彼のことだ、電話の相手が誰か察しがついているのだろう。

本能的に、この接触は好ましくないと判断した遥は、未だ鳴り続ける着信音を拒むように携帯を握り締めた。


「へぇ…」


面白いのか、面白くないのか───花宮の表情が消える。

そして素早く手を伸ばし、遥の手中から携帯を掠め取った。


「!」


高く上げられた彼の腕の先から聞こえてくるのは、


『遥ー?』


渦中の人物である、大事な友人かつ仲間の声。


『ん?遥?おーい』


その声を遮って一方的に通話を絶つと、花宮はそれは愉快そうに笑い始めた。


「カワイイ顔が台無しだよ、遥チャン」


対する遥は不愉快そうに眉根を寄せる。


「花宮くん…」

「別に何もしねーよ。オマエら見てると反吐が出るけどな」


そう言うと花宮は携帯を投げ返した。

綺麗な放物線を描いたそれを受け取ると、遥は真っ先に電源を落とす。

もし、また彼から電話がかかってきたらと思うと気が気でない。


「ま、お大事にとでも伝えといてよ」


澄まし顔でそう言ってのけると、花宮は遥との距離を縮めた。

咄嗟に後退る遥の腕を引いて、耳元で一言。


「そうそう、アイツを守ろうとしてんのか知んねーけど、オマエ自分の心配すべきなんじゃねーの?」

「!?」


馬鹿にしているのかどうなのか、やはり楽しげに笑ってみせた花宮は、最後に遥の頭を数度優しく叩いてから去っていく。


「………?」


制服姿の彼の後ろ姿を眺め、1人になった遥に残されたのは、恐怖でも嫌悪でもない。

もやもやした蟠りを抱きつつその姿を見送ってから、遥は携帯の電源ボタンを長押しした。


「あ、もしもし鉄平?さっきはごめんね───」




背中合わせのモノクローム


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