何故彼を見た瞬間泣き出してしまったのか───考えても答えが出ない疑問を胸に、遥は大人しくされるがままである。


「…………」

「…………」


妙な沈黙が2人を包んだ。

町行く大勢の人々からすれば、賑やかな休日の都会の一角の様子など、何十・何百万のピースで構成されたジグソーパズルの一片のようなものである。

しかし当人たちからすればそれは紛れもない現実であり、目の前の全てだ。

他の何もかもが目に入らず、耳にも入らない。


「見つかっちゃったね」


唐突に発せられた遥の言葉に、赤司は僅かに目を瞠った。


「私が追いかけてたのに」


途中で見失ったものの、この人混みの中、最初に色鮮やかな赤を見つけたのは遥である。

しかし、それを察していたかのように連絡を寄越し、声をかけたのは赤司だった。

先程彼が口にした"かくれんぼ"で言うならば、鬼であるはずの遥が別の形で負かされたというわけだ。


「それは僕が見つけたわけじゃない」


どこか嬉しそうに、赤司は微笑んでみせながら返す。


「初めから勝負にもなっていないのだから」

「…そうだね」


勝負事で負けなしの彼曰く、"勝負にもなっていない"───確かにあの赤司相手に勝負も何もないと、遥は素直にその言葉のまま受け止めた。

そのとき彼の双眸が鈍く光ったことに遥が気付いていれば、また違う行動に出たのだろうが、赤司は自身の腕にちらりと視線を落とすと話を切り出す。


「この後、時間は?」

「もう用事は済んだし、暇だけど」


その返答に滑らかに返されたのは、遥の奥底に根付き、この世界にいる限り耳にし続けるだろう言葉。


「帝光に行きませんか」


遥の表情が強張った。


「無理にとは言いませんが」


顔を引き攣らせたまま、彼女の中で様々な思いが交差し渦を巻く。

彼は帝光に顔を出すために、こちらに帰ってきていたのか───。

遥の胸中すら見透かしているかのように、赤司はまっすぐ彼女を射抜いていた。


「一緒に行っていいなら……私も行くよ」


数秒躊躇った後、遥が下した決断は肯定。

3年間慣れ親しんだ校舎に慣れ親しんだ体育館───それらを見るのは久しぶりである。

まして、赤司と共に帝光へ向かうことになろうとは全く想定外のことだ。

休日の東京、ごった返す波の中に溶け込みながら、肩を並べた2人は目的地へと歩き始めた。




かくれんぼ


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