「ただ時間訊かれただけだよ?」
「…………」
何でもないと遥は明るく返したが、水戸部の心配げな表情は変わらない。
元来彼は心配性の気があるものの、その瞳や面持ちはそう無下には出来ない真剣さを帯びている。
「…………」
ふと水戸部の手が伸びてきた。
大きな手が遥の頬へ添えられる。
そこから伝わってくるのは、確かな熱と心配と謝罪だった。
「何で謝るの…?」
悲観的な気配を纏う彼に訊ねるも、返ってきたのは首を横に振るという仕草だけである。
戸惑っているのか躊躇っているのか、手は離れたものの眉は下がったままだ。
疑問が募る遥は自分より高い位置にある彼の横顔を見つめるも、困ったように表情を曇らせるチームメイトから視線は返ってこない。
「…………」
言葉を交わさなくとも水戸部とは意思疎通出来ていると確信していた遥であったが、どこかいつもと違うような彼の様子にまた別の不安が過ぎる。
「…………」
と、そのとき水戸部の唇が動いた。
動いたといっても音が発せられたわけではないが、言葉を伝えられたのは間違いない。
「そんなに…?」
目が離せない───まるで幼い子を持つ親のような発言に、遥はきょとんとしてしまう。
だが、同級生に目が離せないと言わせてしまう程危なっかしいのかと今までの行いを振り返ってみれば、なんだかんだ皆に心配をかけ、皆に支えられている節は大きいように思われた。
頼りにしてもらえるよう、もっとしっかりしなければと思う一方で、七瀬遥という存在自体を認められているという証拠にもなっているようで嬉しさも感じてしまう。
「ごめんね、ありがとう」
謝罪と礼を伝えると、緩く頭を振った水戸部は声を出さずに言った。
さっきのも、何かあってからだと遅いと思ったからなんだ───先程の男性は一見好青年であったが、もしかしたら彼が原因で何か事件に巻き込まれていたかもしれない。
やや気にかけすぎだし、事件と言うと大袈裟だが、厄介事に巻き込まれていた可能性はけして0ではないだろう。
「……凛ちゃんお母さんみたい」
思わず漏れた遥の本音に、水戸部は目を丸くした。
心配性で面倒見がよく、友人たちのサポートも手慣れていて、料理も出来る彼は確かに親のようなところはあるが、"お母さん"ではもはや性別も変わってしまっているのだ。
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