はい、という声と共に差し出されるボールと、どこか悲しそうにも見える遥の顔を見比べ、降旗は手を伸ばすよりも先に口を開いた。
胸中に溜めていた形にならないものを吐露するなら、今だ。
「バスケやりたいっていうの、嘘じゃないんです。バスケ好きだし、全部バスケに捧げて上手くなって、マジで日本一になりたいって思ってます」
泣きそうになるのを俯き加減で隠し堪えながら、降旗は言葉を選び話していく。
「でも、七瀬センパイの噂のことももちろんですけど…2年生のセンパイたち、みんな凄いし。1年だって、火神と黒子みたいなすげー奴がいて」
「うん」
「全然追いつけてないの、わかってるんです。だから、オレ…」
降旗が顔を上げた。
一生懸命で真面目な彼は、遥の瞳を確かに見据える。
「もっと上手くなりたいし、もっと色々知りたいし、もっと…」
「うん、分かった」
後輩の思いを受け止めた先輩は、あっさりと返した。
降旗はきょとんと目を丸くする。
「私で出来ることなら喜んでするよ。降旗くんたちと一緒に、引退するまでずっと頑張るつもりだし」
誠凛バスケ部のマネージャーだからね、と付け足し、遥は再度手中のボールを差し出した。
今度は躊躇うことなく、それを受け取る降旗。
「オレ、もっともっと頑張ります。もっともっと頑張って上手くなって、バスケのこと知って…」
思わず掌に力を込めると、使い込まれたボールのざらつきがよく分かる。
「センパイにも迷惑かけると思うし、色々助けてもらうと思うけど……いつか素直にセンパイに褒めてもらえる人間になります!」
「…素直に?」
「あ、いやっ、その……」
ツッコまれた理由を素直に言えず、降旗は言葉を濁した。
これを言ってしまうと、色々とマズい。
不思議そうに首を傾げてみせた遥だったが、深く考えようとも答えは彼の中にしかないのである。
「降旗くんだけの話じゃないけど…これからどんどんカッコ良くなっていくんだろうな」
今はまだ頼りない姿の方が多いが、これが1年もすれば、人としても選手としても逞しく成長していることだろう。
遥の胸中で、置いてきぼりを食らうような寂しい思いと、期待に満ちた待ち遠しい思いが交差する。
「七瀬センパイを引っ張れるぐらいの男になったら…」
仄かに顔に熱を集め言い淀む降旗に対し、遥はやはりいつもの通りに微笑んでみせた。
「うん。PGとしての活躍も期待してるね。変に焦らずマイペースに、日本一になろう」
そんな彼がファインプレーを決めてみせるまで、後数ヶ月。
誠凛ルーキーは揃いも揃って有望なのである。
将来有望ルーキー
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