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部活動を終え、2人がやってきたのは誠凛メンバーご用達のストリートだった。
今日は誰もこちらには来ていないらしく、静かに話をするには持ってこいな場所となっている。
遥の背を見ながらコートに足を踏み入れた降旗は、目の前がぐるぐると渦巻く感覚に襲われていた。
勇気を出して先輩を誘い出したのはいいのだが、どう話を切り出せばいいのか───高鳴る鼓動と真っ白になる脳内に、彼はもういっぱいいっぱいなようである。
しかし、遥がそんな彼の状態を知るはずもなく、肩に提げた鞄を抱え直すといつもの調子で振り返った。
「今日誰も来てないみたいだから、使いたい放題だよ」
「あ、はいっ」
慌てて姿勢を正し返事をした降旗に、遥は思わず笑みを漏らす。
「そんなに緊張しなくても……あ、そうだ1on1やろっか」
「え、あ、はい、すいません…………って、1on1!!?」
「うん。せっかくコート空いてるし」
降旗の動揺が更に振り幅を増した。
しかも何の運命か、コートの端に使い古されたボールが寂しげに取り残されているのだ。
これはもう1on1確定コースである。
引き攣る降旗の頬を、嫌な汗が伝い落ちていった。
相手はただのマネージャーといっても、あの『キセキの世代』絡みの噂の張本人・七瀬遥なのだ。
「………やっぱりシュート練だけにしとこっか」
空気を読んだらしい遥の訂正に、降旗は詰めていた息を大きく吐き出した。
心臓の辺りに鈍い痛みが走る。
「センパイと1on1とか…マジ勘弁してください…」
「…そうだよね。マネージャー相手じゃ練習にもならないよね」
「ちがっ、そういう意味じゃなくて!」
別の意味で慌てふためくこととなった降旗。
通学鞄と入れ替わりで拾い上げたボールの上に手を滑らし、優しく土埃を払いながら遥は微笑んでみせた。
「降旗くんが思ってるような人じゃないよ、私」
「え…?」
「凄くもなんともない、ただのマネージャー。だから変に気を使ってくれなくて大丈夫」
そう言うと、遥はゆったりとしたドリブルでゴールへ向かい走り始める。
ゴールの数歩手前で踏み切り、片手でボールを持ち上げ放れば、それは無事にネットを潜っていった。
「じゃあ次、降旗くんの番ね」
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