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氷室とのデート開始から30分。
遥は、彼の人を惹きつける魅力とでも言えばいいのか、その類の才能をひしひしと感じていた。
彼女も普段、友人たちと大人数で仲良く騒ぐこともあるし、姿を見ればすぐに駆け寄ってきてくれる後輩にも恵まれている方である。
しかし氷室は、整った容姿だけでなく育った環境が違うせいもあるのか、別の意味で様々な人を惹きつけるのだ。
先程女子中学校の近くを通ったときも、部活動中だったらしい生徒たちは、氷室を横目にテンションが上がってしまっていたようである。
「辰也くん人気だね」
「そう?」
分かっているのかいないのか、遥の隣を歩く彼は疑問符を返した。
「うん。………あ、此処だよ。いつでも割引な雑貨屋さん」
住宅地の一角、小さいながらもこ洒落ている店の前で遥は立ち止まる。
どういう原理なのかは不明だが、遥好みのセンスのいい小物やアクセサリーばかりを取り揃えてあるこの店は、いつでも割引セール中なのだ。
多少予算オーバーなものもお手頃価格で入手出来るということで、友人の誕生日の際などに重宝している行きつけの雑貨屋だった。
「ハルカはこういうのが好きなんだ?」
入店するや否や、そう訊ねる氷室の手には、細かい細工が施された小物入れ。
「うん。それ新商品みたいだね」
まさに自分好みだったそれに頷いてみせながら、遥は大量にぶら下げられているネックレスに手を伸ばした。
ポイントである銀の長方形のプレート部分には、何やら英文が刻まれている。
「But love is blind, and…」
「But love is blind, and lovers cannot see The pretty follies that themselves commit.」
遥の手を掬うように取ると、流暢に読み上げた氷室。
さすがアメリカ育ち、綺麗な発音だ。
「英語の格言、か」
同じ種類のネックレスを次々に眺め氷室は言う。
プレートに刻まれた英文は、どれもこれも有名な文言らしい。
「……これがいいかな」
選び抜いたネックレスを持ち、彼は店員の方へ歩いていく。
氷室に話しかけられた女性店員はきっと予想通りの反応を返すのだろうが、それを見ることなく遥は手元のネックレスに目を落とした。
英語が堪能な彼はすらすらとこれを読み上げていたが、どんな意味になるのだろうか。
「えっと…」
「ハルカ」
「…!」
後ろから声が聞こえたと同時に、突如首筋に冷たい感触。
慌てて顔を上げ、振り向こうとすれば氷室に優しく制された。
「動かないで」
穏やかな声音と小さな金属音が背後から聞こえる。
冷たいそれに慣れてきた頃、満足そうな彼の声が届いた。
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