"いいな…"と、女性から見ても羨ましいその髪を見つめながら、遥は独りごちた。
停電のせいで暗いのが残念だ。
「大分ましになったかも」
「ありがとう」
伊月の手が遥の手首にかかる。
顔を上げた彼の黒い双眸は、まっすぐ彼女に向けられていた。
「……っ」
伊月はその顔立ちからか落ち着いた性格からか、バスケ部で一番人気のあるメンバーである。
デートのお誘いは勿論、告白だって珍しくはない。
その光景を遥は直に見たことだってあるのだが、そのせいだろうか。
こう綺麗に微笑みながら礼を言われると、クラスメイトかつチームメイトの特権とでも言えばいいのか、胸の奥が擽ったい。
「遥…?」
照れたように視線を斜め下へと逸らせ、遥が口ごもったそのときだった。
─────────!!!!!
タイミングよく、地面どころか空も裂いたのではないかと思える程の雷鳴が轟いたのだ。
大きく目を見開いた遥は固まってしまう。
そんな彼女を、伊月は優しく抱き寄せた。
体全体で包み込み、あやすように頭を撫でてやりながら、彼は黒味を増した空を見上げ表情を曇らせる。
「今のはヤバそーだな…」
「……ねえ俊、鷲の目で雷のタイミング分からない?」
「いや、それはさすがに…」
今更ではあるが、彼女もチームメイトも、"鷲の目"を誤解しているきらいがあるようだ。
「雷はいつ鳴るかわからないけど、遥のことは見えてるから」
「………暗いのに?」
「クライマックスは暗いくらいが盛り上がる……キタコレ」
「"くらい"三連発だね。さすが!」
「あとでメモしないと」
"にしても、色んな意味で遥から目が離せないな"───小さく付け足された言葉は雷鳴に掻き消された。
雨、風、雷共に、より一層激しさを増したようである。
ひっきりなしに降りしきる雨粒、轟々と唸る風、怒りが治まらないらしい雷。
それら全てが一斉に、伊月家を含む一帯に襲いかかっていた。
窓が軋む。
声も聞き取りにくくなってきた。
「おばさんたち大丈夫かな」
「大丈夫だろ。簡単には帰ってこれないだろーけど」
「そうだよね」
大荒れの天候の中、家族が出払い電気が遮断された家に取り残された2人───まるでホラー映画の1コマだ。
命に危険がない分、穏やかな雰囲気ではあるが。
← return →
[3/4]