「あ、でも私もコガくんに癒されてるよ」
「マジで?どんどん癒されてくれていーよ!」
自信満々に見える楽しそうなその顔は、見ている側に元気を分け与えてくれそうな程眩しい。
器用貧乏と言われる彼の最大の武器である明るさに照らされたせいか、遥の胸中に温かいものがゆっくり染み渡っていく。
「大分元気になったみたいだね」
「ちょっと寝そうにはなったけど……これぞ七瀬ちゃん効果!」
「大げさすぎだよ」
どう聞いても大げさではあるが、小金井曰く遥は癒やしでエネルギーの源らしいので、彼が言うならそういうことでいいのだろう。
逆に遥も小金井のおかげで精神的には随分回復しており、身も軽くなる心地だった。
「まだ休憩時間あるよね?」
「10分以上あるよ」
「よし」
遥がポケットに入れっぱなしであった携帯で確認して返事をすると、小金井は片腕を彼女の方へと伸ばす。
あえて遥から遠い側の腕を伸ばしているのには、何か理由があるらしい。
「はい、七瀬ちゃん」
促されたものの、遥はきょとんとしてしまった。
とりあえず差し出された手に目を落とす。
それは何やら不自然に形作られていた。
親指は下に伸ばされ、残りの4本の指は軽く曲げてきっちりと揃えてある。
「……?」
それらの指先から指先を辿ると特徴的な弧を描いているのだが、不自然というか、どこか物足りなく感じられた。
人差し指と他3本で作られた急なカーブを越えると、公園の滑り台のような坂を下って親指へ───。
「あ、分かった」
男子はまだしも、女子なら誰もが見覚えあるだろう"あの形"になっていたのだ。
小金井が何を求めているのかに気付いた遥は、左右対称になるように形作った手を添える。
これでもう違和感はない。
「キミとオレとでハートリング!!」
効果音が聞こえそうな程堂々とした小金井から飛び出したのは、なんとも彼らしい文句。
字面だけ見れば雰囲気のあるロマンチックな一文だが、小金井が言うだけでこうもとっつきやすくなるものだろうか。
出来上がったハートマークはそのままに、遥は空いている手で携帯を構えた。
「コガくん、これ待受にしてもいい?」
「あ、オレもするから送って!」
過酷な練習の合間とは思えない程元気を取り戻した2人は、まだこの後も練習が続くということもお構いなしではしゃぎだす。
後日、2人の携帯の待受は、"3歩歩くとイカリング"に続く小金井の名言が書き添えられた、文字通り手製のハートリングになったのだった。
充電系男子、充電系女子。
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