「それに、此処涼しいから癒されるんだよねー。あ、七瀬ちゃんもおいでよ」
「うん」
誘われるがまま両腕に力を込めて舞台によじ登ると、遥は彼の隣に腰を下ろす。
ひんやりとした床が確かに心地好い。
「気持ちいいね」
「でしょ?」
弱々しく両足を交互に動かしている小金井は、床に片頬をつけて遥を見上げた。
「七瀬ちゃんも寝転んじゃえば?」
"ずっと動いてたから暑いっしょ?"と付け足され、遥もおずおずと寝転がる。
部活動用のジャージ姿なため、汚れる心配はない。
「つめたーい」
小金井の方を向くように火照った片頬を床につけると、途端にそこから熱が奪われていくのが分かった。
蟠りが取り去られるような爽快感だ。
「このまま寝ちゃいそー」
そう言いながらうっとりと瞳を細める小金井は、本当に寝てしまいそうな程気持ちよさそうな雰囲気である。
「寝ちゃ駄目だよ」
遥は肘を立てて上半身だけ起こすと、指を伸ばして今にも眠りそうな彼の頬を突っついた。
まだ熱の残る程良い柔らかさのその頬に2度、3度と優しく刺激を与える。
小金井は嫌がる様子もなく、ぐずるように呻くだけだ。
「うう…」
「本当に寝ちゃ駄目だよ?」
「分かってるよー」
遥に視線を向けながら、小金井は返した。
しかし目つきはぼんやりとしており、信憑性は低そうである。
「でもさー、此処気持ちいいし、隣に七瀬ちゃんいるし、仕方なくない?」
「私?」
突如登場した自分の名に、遥は小金井の頬で遊んでいた手を止めた。
彼は床に頬をつけた体勢のまま頷く。
「なんか、七瀬ちゃんいると癒されるんだよね。選手じゃないけど一緒に頑張ってくれてるの分かってるから、オレも頑張ろーってなるし。充電?みたいな」
咄嗟に言い返せず、遥は口ごもった。
小金井にはお茶目なところもあるが、今のは冗談のようには聞こえない。
床に逃したばかりの熱が徐々に戻ってくる。
「何もしてないのに……。ありがとう」
照れを隠せぬまま礼を言えば、小金井はしてやったりと言わんばかりに瞳を輝かせた。
「七瀬ちゃんが照れた!カーワイっ」
遥が照れるのは別段珍しいことでもないはずなのだが、雰囲気を明るくするためか、どことなくわざとらしい。
しかしその調子も顔色も、つい先程とは打って変わって、すっかりいつものムードメーカー・小金井慎二の姿だ。
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