「遥が遅刻とか珍しいな───って、何で良がいるんだよ」
「す、すいません」
桜井は再度体を震わせると謝った。
さつきの後ろから頭を掻きながら顔を出したのは、桜井と同じバスケ部の青峰だ。
遥の後輩でもある彼は、本日の待ち合わせ相手の1人でもある。
「ついさっき、近くで桜井くんと会って…お揃いだから連れてきちゃった」
「は?」
「え?」
遥の説明に、幼馴染みの男女は揃って疑問符を浮かべた。
別に桜井と行動するのが嫌というわけではない。
ただ、どこがお揃いなのか理解出来なければ、お揃いだから連れてきたという意味も理解出来ないだけだ。
青峰は怪訝そうに桜井を見下ろす。
途端に涙目になった彼は口を開いた。
「すいません、ボクなんかがお揃いですいません」
「は?」
「え?」
桜井の説明───謝罪に、幼馴染みの男女は、先程と同じく揃って疑問符を浮かべる。
どちらに訊いても結果は同じようだ。
「えっと…どこがお揃いなんですか?」
迷いからか言葉を詰まらせつつ、さつきは訊ねた。
全員私服ではあるが、服装やアクセサリーなど、これと言って共通点は見当たらない。
「クマがお揃いなんだよね」
遥は、自身の右側に立つ桜井の方を向きながら答えた。
さり気なく手を伸ばし、彼の左手を掴まえる。
驚いたらしい桜井だったが、握り返す手に力を込めた。
「お二人を差し置いて、七瀬先輩とお揃いのクマですいません」
そして、やはり謝罪を口にしながら深々と頭を下げる。
「………いや、だから意味わかんねーよ」
「すいません、すいません」
「オイ」
青峰と桜井が噛み合わない会話をしている一方、さつきと遥もまた噛み合わない会話を繰り広げていた。
「珍しい4人になったね。って、連れてきたの私だけど。むしろ私が邪魔かな?」
「邪魔なんかじゃないです!人数多い方が楽しいし…ちょっと色々と不思議ですけど」
2人から聞き出せたことを纏めると、クマがお揃いなために一緒に行動することになったらしいが、やはりさっぱり理解出来ない。
それでも優れた第六感が告げたのか、遥と桜井の繋がれたままの手を見つめ、さつきは首を傾げた。
イライラし始めた青峰と泣き顔で謝り続ける桜井は、未だに何かを言い合っている。
我関せずなお揃いのクマは、向かい合ってひっそりと、だが同時に堂々と、満面の笑みを浮かべていた。
繋いだ手が離れるまで
2人だけの秘密です
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