桜井は驚いた様子で遥の手元を見つめている。


「私も持ってるの。この絆創膏」


目線の先にある愛らしいクマ柄の絆創膏は、先程彼が遥に貼り付けたものと全く同じ柄の絆創膏だ。

それを彼の左手の掌に貼ると、遥は茶化すように微笑みながら言った。


「お揃いだね」


絆創膏の柄がお揃い、しかもその柄がクマというお揃いは少々滑稽ではあるが、笑い話のネタとしては使えるかもしれない。

桜井は瞳を瞬かせると、困ったように綻んで頷く。


「……はい」


お互いの不注意が招いた小さな事故は、両者の傷口をお揃いのクマが保護するという形で幕を下ろす───はずだった。


「あ」


遥は突如息を飲むと、慌ててポケットから携帯を引っ張り出した。

素早く時刻を確認し、僅かに表情を歪める。

待ち合わせの時間まで、後3分。

とりあえず謝罪のメールを送信しておいたが、何分待たすことになるだろうか。


「どうしたんですか…?」


遥の顔色を見て悟ったのか、桜井はおどおどしながら訊ねた。

ここで素直に"待ち合わせに遅刻確定"と言ってしまえば、桜井が気にしてまた謝罪の嵐になることは目に見えている。

そもそも、待ち合わせに遅れそうだったため走っていて、彼にぶつかったのは遥自身だ。

様々なことをどう処理しようか考えていた遥だったが、思考が少し逸れたことで彼女曰く"ナイスアイデア"を思いつく。


「大分引き止めちゃったけど…桜井くん、もしかして何処かに行く途中だった?」

「あ、はい、一応。買い物に行こうかと思ってただけですけど…」

「じゃあ一緒にどうかな?」


愕然と目を瞠った桜井に、断るという選択肢は存在しなかった。









「あ、来た!遥せんぱーい!」


名前と同じ桃色の長い髪を揺らして手を振る彼女に、遥も手を振り返して歩み寄る。


「ごめんね、待たせて」

「そんなに待ってませんから」


仲良さげに会話する女子2人の後ろで、桜井は居心地悪そうに縮こまっていた。

学校でほぼ毎日顔を合わせているバスケ部マネージャー・桃井さつきと、こんなところで会うことになるとは思ってもいなかっただろう。


「あれ、桜井君?」

「はい、そうですスイマセン」


さつきに名を呼ばれ、桜井はすぐさま謝罪を口にする。


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