「すいません、すいません…ほんとスイマセン!」
90度に頭を下げ続け謝り続ける目の前の彼に、遥はすっかり困り果てていた。
もうかれこれ5分は同じ光景である。
「すいません、自分のせいで先輩に怪我をさせてしまうなんて…!」
「そんなに謝らないで。私に非はあるし、ね?」
一度涙目で顔を上げた桜井だったが、またすぐに頭を下げ始めた。
事の発端は5分程前、遥と桜井が曲がり角で鉢合わせしたときだ。
考え事をしていて前方不注意だった桜井と、急いでいたため前方不注意だった遥が出会い頭にぶつかったのである。
大した勢いではなかったものの、尻餅をついた遥はそのせいで掌を少々深く擦りむいてしまった。
遥からすれば自分の非で人にぶつかり怪我をしたわけなのだが、気弱で自虐的な桜井からすれば、"自分の不注意で他校の先輩に怪我をさせてしまった"のだ。
慌てふためきすぐさま謝罪した桜井は、謝罪しながら鞄から絆創膏を取り出し、謝罪しながらそれを傷口に貼り付けるという一連の動作を、実に鮮やかに行ったのだった。
「怪我って言ったってちょっと擦りむいただけだし、私のせいだから。絆創膏ももらったし大丈夫だよ」
怪我をした右手の掌を桜井の方へ向けながら、遥は言った。
そこに貼られているのは、それは可愛らしいクマ柄の絆創膏だ。
女子供が好みそうな愛らしい色彩とデザインではあるが、間違いなく桜井の鞄から出てきたものである。
「それより、桜井くんは大丈夫?捻ったりしてない?」
肩を跳ねさせると、涙目のまま首を振った桜井。
「すいません、自分は大丈夫です。ありがとうございます」
「………」
庇うように自分の手を胸の前で握りしめながら答えた彼だったが、遥はその小さな行動を見逃すわけにはいかなかった。
他校と言えど、マネージャーが選手に怪我をさせるなど言語道断だ。
「ちょっと見るね」
「あ…!」
遥は一応断りを入れてから、彼へ腕を伸ばし素早く視診する。
捻った形跡はないようだが、彼も掌に微かな擦り傷をつくっていた。
「あ、擦りむいてる」
「隠すつもりじゃなくて、大したことなかったんで…すいません」
遥は手提げ鞄からポーチを取り出し、その中を探る。
現れたのは、クマ柄の絆創膏だ。
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