「つかもうどーでもいーやそんなこと…」


青峰は欠伸を漏らすと、片目に涙を浮かべつつ体勢を整えた。

腕を組み、横向きになって瞳を閉じる。


「5分経ったら起こして」

「え、寝るの?」


返事はない。

顔を覗き込むも、瞼は閉じられている。


「…………」


人一倍バスケが好きな青峰は、今日も人一倍バスケを楽しんで体を動かしていた。

そのため当然疲れてはいるだろうが、こんなことで音をあげる程体力がないというわけではないはず。

幼馴染み曰く"バスケバカ"な彼は、それこそこの後も1人黙々とボールを操りかねない程、様々な意味で底無しなのだから。


「5分…」


帰ることは勿論動くこともままならない遥は、出来るだけ膝を動かさないように時間を確認してから青峰の横顔を眺めた。

向こう側を向いてしまってはいるが、無邪気さと精悍さが相俟った彼の寝顔を見る機会など、そうそうあるものではない。

膝に心地好い重みを感じつつ、遥はただ静かに見つめていた。

時折肌を撫でる風が髪を揺らしたりする程度でその光景にほとんど変化はないが、そんなことは遥にとって取るに足りないことである。

しかし、青峰にとっては大いに取るに足りることだったらしい。


「見すぎだろ」


体を捻ると、彼は遥へ手を伸ばす。

首裏にかかった腕が引き寄せられ、2人の距離が縮まった。


「寝れねーっつーの」

「視線って結構分かるんだね」


はにかんでいるらしい青峰は、目を細め一頻り睨んでから顔を背ける。

感心していた遥が謝罪を述べると、彼は再度眠る体勢へと戻った。

静かに瞳が閉じられる。


「………遥」

「何?」


前屈みになっていた姿勢を戻しながら、返事をする遥。


「やっぱ10分な」


そう言うと、青峰はすっと眠りに落ちていった。

今度こそ、10分後に遥が声をかけるまで起きないつもりだろう。

もし足が痺れて立てなくなったら、彼のせいだと文句を言って、家まで送ってもらうのもいいかもしれない。

面倒見がいい青峰のことだから、わざわざ言うまでもなく付き添ってくれるはずだが。

そんなことを考えながら、眠ってしまった後輩の髪に指を通し、先輩は小さく微笑んだ。




Xの解は求めるべからず


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