先に視線を逸らしたのは青峰。
彼は正面を向いたまま、一度肺の中の息を全て吐き出し、そして深呼吸の要領で今度は思い切り吸い込んだ。
「遥のバカチビまぬけ隙ありすぎいつもセンパイ面してんじゃねーぞバーカ」
「!?」
読点もつけず一息で言い切られたのは、遥を貶す言葉の羅列。
当人である遥は、息を飲んで口元を引き締める。
咄嗟に何も言い返せない。
青峰はわりと素直に思ったことを口にする方だが、そんな風に思われていたのかと少なからず動揺している遥の脳内で、先程の彼の言葉が何度も反響する。
「自分ばっかり"見る側"だと思うなよ」
青峰は拗ねたように口を尖らせて吐き捨てた。
その言葉が意味することは───。
言いたいことを言い切ったらしい青峰は向こう側を向いてしまい、遥からは表情を確認することが出来ない。
「………えっと」
何か言おうと口を開くも、考えや言葉が纏まらず、遥は俯いた。
学校指定のスカートの上で重ねてあった手に力を込める。
「何か言い返せよ」
「………青峰くんのバカ」
とりあえず悪口になるであろう返事を返すと、青峰は平然と続きを促した。
「で?」
「………何回言っても敬語使ってくれない。紫原くんもだけど」
「そんで?」
「………チビって言うけど、青峰くんからしたら大体皆チビだからね」
「まだあんだろ?」
そもそもそういう性格ではないためか、いざ言い返すとなるとなかなか難しい。
「………くろすけ」
「く…!?」
絞り出された意外な単語に、青峰は思わず振り返った。
そして呆れた様子で大袈裟に溜め息を吐く。
「やっぱ同い年じゃなくて良かったわ。すげー大変そう」
「それいい意味じゃないよね?」
怪訝そうに遥がツッコむと、青峰は小馬鹿にするように鼻で笑ってから体を横へ倒した。
彼の頭は帝光指定のスカートの上、遥の膝の上へ収まる。
「オレからしたらいー意味だけど?」
意味が理解出来なかった遥の頭上に"?"が浮かんだ。
彼の、自身のプレイスタイルを彷彿とさせるような言動に、すっかり翻弄されてしまっている。
愉快そうに歯を見せている青峰は、その様子を下から眺めて楽しんでいるようだ。
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