「そーゆーこと言ってんじゃねーよ」

「って言われても…」


やや苛立っているような青峰に対し、遥は首を傾げている。


「名前と、サッカー部の主将ってことと、カッコいいから学年でファンも多いってことと、試合で怪我してちょっとの間学校休んでたってことと…」

「…………」

「あと、マネージャーと付き合ってるってことぐらいしか知らないし。今隣の席だけど、あんまり話したことないから」

「…ふーん」


訊いておきながら、彼の返事は素っ気ない。

閉口してしまった遥は、更に首を傾げることとなる。


「サッカー部に興味あるの?」

「別に。バスケやれればそれでいーし」

「そうだよね。青峰くんバスケ大好きだもんね」

「当たり前」


手中のペットボトルを器用に回しながら、青峰は口角を上げて答えた。

普段の彼を見ていれば、どれだけバスケが好きなのかは一目瞭然。

おそらく部内で、彼以上にバスケが好きな人はいないのではないかと思える程バスケ好きだということを、遥は身をもって知っている。


「遥…サンが同い年なら良かったのに」


ふわりと漂う風が、意味もなく青い髪を揺らした。

対照的な夕焼けも相俟って、言葉に出来ない哀愁が見え隠れしているようである。

遥は暫し躊躇ってから口を開いた。


「青峰くんと同じクラスだと面白そうだね」

「そーか?」

「あ、でも毎日さつきちゃんとの喧嘩見ることになりそう」

「毎日はしてねーよ」

「ほんとに?」


すぐに返事は返ってこない。

彼と幼馴染みとの口喧嘩は、どうやらそこそこの頻度で勃発しているらしい。


「嫉妬しちゃうかも」

「は?」

「相手のこと見ないと出来ないよ。喧嘩って」


青峰の手が止まる。

首だけ振り返った彼の視線と、まっすぐそちらを向いていた遥の視線が交わった。

夕日が射し込み、いつもと違う色で光り輝く双眸は、異なる意味合いで互いを縛り合っている。

縛っていると言っても、肌を刺すような刺々しい緊張感はない。

だがそれでいて2人を取り巻くのは、どう足掻いても埋めようのない確かな"差"だった。

いくら同じように重なり交わろうとしても、寄り添うことしか出来ない明確な差。

良くも悪くも意識しがちなこの鋭利な刃物のような差が、そもそもの始まりでもある。


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