「名前ー、イケメンズが呼んでるよー」


その声に顔を上げれば、イケメンズこと私の幼馴染みの1人が教室の入口でひらひらと手を振っているのが見えた。
もう1人の幼馴染みは此処から見えないけど、きっと両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、退屈そうに壁に凭れているだろう。
なんだかんだであの2人は仲良いからね。


「名前、辞書貸して」
「いいけど、英語の授業の度借りにくるのやめてくれない?早く新しいの買ってよね」
「悪い悪い。これ発音記号も分かりやすいし、使いやすいからさ」


電子辞書を渡せば、心にもない謝罪と共に頭を撫でられる。
昔から面倒見の良い兄気質な景光は、すぐこうやってくるのだ。
これで誤魔化せるなんて思わないでいただきたい。

そしてその背後で、やっぱり付き添っていた零が大きな溜め息を吐くのもお約束だった。


「毎回毎回付き合う俺の身にもなってくれ」
「だからって俺が1人で行っても怒るだろ?」
「何で怒る必要があるんだ」
「分かってるくせに」


女子生徒達の間でイケメンズと称される我が幼馴染みは、性格はさておいて、顔良し頭良し、更に運動神経も良ければスタイルも良い完璧超人である。
当然校内でこの2人を知らない者はいない。
他校の女子からもそれは絶大な人気みたいだけど、2人共頑なに恋人を作らないから、一時あらぬ噂まで立ったぐらいだ。
本人達はそれすら気にせず、やっぱり告白は断り続けてたみたいだけど。


「用が済んだなら戻るぞ」


零がそう言いながら、何故か私の髪を手櫛で整え、わざわざ胸元のリボンまで結び直してくれる。
これもまた何故か昔から、零はいつも私より私の身形に気を配るのだ。
しかも手先が器用だから、正直任せる方が私としても良かったりする。
編み込みとか普通に上手いもん。
ちなみにカッターシャツのボタンは1つしか開けさせてくれないし、スカート丈が零基準で短いと怒られるから、私の身形はほぼ彼によって作られていると言っても過言ではない。


「ほんと零ってお母さんみたいだよね。景光はお兄ちゃん」
「こんな手の掛かる娘はごめんだな」
「お兄ちゃんなぁ…」
「私もごめんだよ。こんなお母さんとお兄ちゃんがいたら一向に彼氏出来そうにないし」


心底うんざりだと溜め息を吐いてみせれば、零と景光からスッと表情が消えた。


「名前に彼氏?有り得ないな」
「ちょっと真顔やめて。どういう意味よそれ」
「俺らが認めた男じゃないと、ってことだろ。目の黒いうちは〜ってやつ」
「まぁ一昨日サッカー部をフッたのは褒めてやるよ」
「は!?何で知ってるのよ!見てたの!?」


零に詰め寄っても、その憎たらしい程綺麗な顔立ちが崩れることはない。
逆に青い瞳に吸い込まれそうになるから怖くなるくらいだ。
まぁまぁと私の肩を叩きながら宥める景光は景光でちょっと楽しそうに笑ってるし、恋愛事情が異性の幼馴染みにだだ漏れってどういうこと?

問い詰めたいことは山程あるが、それを遮ったのは休憩時間終了を告げるチャイムだった。


「戻るぞゼロ」
「ああ。名前、帰り迎えに行くから先に帰るなよ」
「何で一緒に帰ることになってるのよ。私今日は放課後───」
「野球部からの呼び出しだろ?」
「何で知ってるの!?」


走って自分達の教室に戻っていく幼馴染みを見送ってぐったりしながら席に戻れば、一連のやり取りを全てばっちり動画で記録までしていた友人が嫌な笑みを浮かべながら待ち構えていた。


「で、可愛い可愛い名前ちゃんは、イケメン母さんとイケメン兄さん、どっちが本命なのかな?」
「今この状態でそれ訊く?」


放課後、ちゃんと1対1で話すことが出来たから四者面談にはならなかったけど、このハイスペックすぎる幼馴染みがいる限り、彼氏は望み薄だと改めて思いました。
この2人のお眼鏡に適う男って少なくともうちの学校にはいない…って、本当にヤバくない?
このままだと一生結婚とか無理くない?
もう、アンタ達責任取ってよね!

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