今日も今日とて目が離せない。
何からって…アレだ。
クラスメートで部活仲間でもある、名字名前からだ。
「今読んでもらった文、このthatが───」
今は英語の授業中だが、珍しく教科書を忘れてきた。
オレではなく、あの名字が、である。
人間誰しも忘れ物ぐらいするだろーし、それは名字にも言えることだろーが、オレの経験上、コイツが忘れ物をするときは大体体調不良のときだ。
クソがつく程真面目で、でも斜め45度のボケもかましてくるコイツは、その性格故無理するタイプである。
辛くても言わない、頼らないがデフォルト。
だからこそ、授業に集中出来ないぐらいには、オレは名字の背中を見つめていた。
後ろ姿からじゃ何も分かんねーけど。
「じゃあ次、名字、読んで訳して」
横の奴───テニス部の田中と引っ付けた机の真ん中に置かれた教科書を覗き込みながら、名字は指示された箇所を読み上げる。
多分予習してきてるんだろう、発音も訳も完璧だと教師はさっさと文法の説明に移った。
が、それで何でオマエが嬉しそうに名字に話しかけてるんだよ田中。
関係ねーだろ。
名字、オマエもソイツに話しかけんな応じんな。
女に見境ないって噂知ってんだろ。
オマエみたいな可愛くて真面目で、でも抜けてるところもあるみたいな奴、恰好の餌なんだから近付くな。
って何考えてんだオレ!?
「………ら」
いや、別に名字が可愛くないとかそーゆーことじゃない。
実際、部活でもアイツのこと可愛いって声上がってんの知ってるし。
だからまぁ……可愛いんじゃねーの?
「…………じ………」
オレが心配なのは、ビビるぐらい真面目で真摯な姿勢は尊敬出来るけど、そのせいで悪い奴に引っかかりそうっつーか。
そう、お人好しの八方美人っつーのが合うかもしんねー。
それでいてちょっとバカだから、そこを悪く突かれたらマジで悪い方にどんどん行っちまいそーで目が離せない。
「虹村!」
「!」
「退屈なんだろうが、授業中にぼーっとしてんな。次、読んで訳」
やべっ、完全違うこと考えてた…!
慌てているオレを見て、クラスメートからは笑いが起きる。
ぶっちゃけどの文読めって言われたのかも分かってねー。
「…!」
ふと顔を上げれば名字と目が合った。
オレをバカにすることなく、いつも通りゆるーく微笑んでみせた名字は"頑張れ"とでも言うかのようにガッツポーズをしてみせる。
いや、オレがこーなってんのオマエが原因だっつーの。
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