駅前の商業施設が、改装移転のため大規模セールを行うらしい。
自宅にポスティングされた、それは最大サイズと思われるデカデカとしたチラシとTVCMで知ってはいたが、実際に行ってみると、その破格の値段と来場者の本気度に驚愕してしまった。


「わりと手強そうだけど、目星は?」
「こっち」


私の手を引いてスタスタ前を行くのは、小学生とは思えないぐらいしっかりしている哀ちゃんだ。
一緒に暮らしていた時の様子から、所謂ブランド物に興味があるのは知っていたけど、まさか本当に実店舗に足を運ぶまでとは思っていなかった。
20代をメインとしたファッションやコスメは、見た目も可愛く私も手に取りたくなるものだけど、今時の小学生は本当にオシャレだし、私なんかより遥かにそっち方面に詳しいのだから驚きである。
今日の目当てだというそれだって、諭吉が何人も飛んでいく0の多さだった。
更に言えば、好きなブランド諸々を前にした女にとって、時間というものはそれは早く過ぎ去っていくものなのである。


「思ったよりは出費しちゃったかも」
「いい買い物だと思うけど」


両手がブランドロゴのショッパーの私の隣にいる哀ちゃんは、博士におねだりするからとさすがに何も買わなかった。
小学生らしいと思う半面、ブランドの価値を理解して阿笠博士に頼むなんて強かにも程があると思ってしまう。


「…あ」
「そっか、もうそんな時期だもんね」


帰路へつこうとしていた私達の目に、淡いピンクの花びらが飛び込んできた。
『さくらフェア』と記されたそれらの傍には、また可愛らしいラッピングが施されたスイーツやギフトが所狭しと並べられている。
それに群がるように吟味し、長蛇の列を作っているのは全員女性のようだった。


「凄い人だね」
「桜の商品は可愛らしいし…あれのせいもあるかも」


哀ちゃんの指差す方に目を向ければ、一際集まる女性達の隙間から『コラボ』の文字が見て取れる。
有名ブランドとコラボした、オリジナル桜商品のコーナーらしい。
チャームのような小さいものからバッグや下着、食器や絵画まで幅広すぎるラインナップだ。

その中でも特に目を奪われたのはアクセサリーである。
ゴールド、シルバー、ピンクゴールドの色違いで、ネックレス、バングル、ピアス、リングなどが取り揃えられていた。
どれも桜をモチーフにしたデザインで、それは輝いて見える。


「……」


お洒落好きな哀ちゃんも気になるのか、桜の花びらのモチーフと小さな透明の石が組み合わさったネックレスをまじまじと見つめていた。
石自体はダイヤモンドのような高価なものではないフェイクなのだろう、値段はリーズナブルで、でもそれでいて小綺麗な格好にも合いそうな上品なデザインだ。
ブランドコラボではあるから少し背伸びはしているかもしれないけど、小学生がつけていても可愛いし、きっと哀ちゃんに似合う。


「ねぇ哀ちゃん、せっかくだし買っちゃおうか」
「え?」
「そう。お揃いで…どうかな?」


ハッと顔を上げた哀ちゃんだったけど、再度ネックレスに目を向け小さく息をのんでから、ゆっくりと困ったように笑ってくれた。


「うん、名前さんとお揃いがいい」
「博士に自慢しようね」
「博士じゃなくて、あの人にでしょ?」
「あの人?」


それから、どのデザインにするか、どの色にするかを悩むこと数十分。
無事購入出来たネックレスを博士に見せに行ったら、何故か鍋を持って隣家からやってきた沖矢さんが、「デザインが素敵ですね」「2人ともお似合いですよ」「これに似合う洋服をプレゼントするべきだったでしょうか」「男として、デートにお誘いしなければいけませんね」などなど、それは物凄く褒めてくれた。
私の隣で哀ちゃんが嬉しそうに、そして楽しそうにしていたから良しとするけど…監視対象が2人で出掛けたことに対する嫌味だったらどうしようこれ。

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