暑い夏からやっと解放されたかと思えば、次は秋を飛ばしていきなり冬が訪れた。
校庭の木々も寒々しくなり、登下校には防寒具が必要だ。
そんな冬の装いとなった景色を眺めながら、名前は何度目か分からない欠伸を漏らす。
放課後の図書室は静かで、何人か自習や読書をする者はいるが、それらの音も彼女からすれば子守歌のようなものだった。
部活が休みだから久しぶりに一緒に帰りませんか───そう彼から連絡が来たときは滅多にないお誘いに飛び上がりそうな程喜び、その後の授業の内容はほとんど頭に残らず、寒さも吹っ飛んだというのに、今は静かで暖かなここで何度も微睡んでいる。
「お待たせしました」
「…テツくん…」
借りていた図書の返却手続きと新しく借りる図書の貸出手続きを終えた黒子が例の如く突然現れるも、半分程夢の世界にいた名前が驚くことはなかった。
油断たっぷりな様子を見て彼が優しく目元を弛めたのだが、眠気と戦う彼女は気付かない。
両手拳を上に突き上げ、凝り固まった背中をばきばき鳴らしながら体を伸ばし、足元に置いたままのカバンを掴んで立ち上がる。
2人並んで外に出ると、室内との温度差のせいかふるりと肩が震えた。
「結構寒いね」
「はい…朝よりはマシですが」
「朝練ある運動部は大変だよね」
その世界ですっかり名を馳せたバスケ部の朝練は早い。
冬になればもっと寒い中練習に励むのだろうと、名前が上着の袖から覗く手を擦り合わせていると、ふとその手がかさついた手に攫われる。
手袋をしていないからこそ肌と肌が直接触れ合い、違う体温が混ざり合っていくのが分かった。
「テツくんの手冷たい…」
「名前の手は温かいです。寝てたからでしょうか」
「そうかも」
くだらないことで笑い合いながらゆっくり歩みを進めても、着実に別れは近付いてくる。
時折吹く風の冷たさに身を縮こませること数回、風邪を引かないためにも外で長居は好ましくないと2人共分かっていた。
「今日、まだ時間大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫」
溶け合った体温を大切に包んだまま黒子が問えば、名前はこくりと頷いてみせる。
その頬に空いた手を伸ばした彼は、冷えてしまったそこを温めるように撫でた。
「クリスマスの予定を立てましょう」
「え?でもテツくん、バスケ部でクリスマスパーティーするんじゃ…」
「それはそれ、これはこれです」
くるりと踵を返した黒子は、名前の手を引いたまま歩き出す。
2人で何度も通った行きつけのファミレスは、この先の角を曲がってすぐそこだ。
学生の強い味方のドリンクバーや、お財布に優しい値段の軽食だって揃っているのだから、体を温めながらゆっくりとクリスマスの予定を立てることが出来るだろう。
「プレゼント交換したいな」
「ボクもしたいと思っていました」
「こうやって手を繋ぎながら、イルミネーション見たい」
「はい。場所調べておきます」
「それから…」
「ケーキを一緒に食べたいです」
「じゃあ頑張って作ってみよう………かな」
「切り株のですか?」
したいことを詰め込んだその日が来るまで、後1ヶ月。
2人で過ごす初めてのクリスマスは、寒さに負けないぐらい温かな思い出に溢れた日になるだろう。
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