「え、予告状?」
「え、名前知らないの?我らがプロフェッサーの正規の大発見が、あの大泥棒ルパン三世に狙われてるのよ!」


食堂で学生一番人気の日替わりランチプレートをつついていたら、私の反応が気に食わなかったのか、ジェシカが向かいの席から凄い剣幕でまくし立ててきた。
何でも、我が校の考古学の変態教授がこの間見つけた壁画を頂戴すると、ルパン三世から予告状が届いたというのだ。
変態教授とは、その考古学へのあまりに変態的な愛情からそう呼ばれている、ちょっとマニアックな考古学教員のことである。
私は授業を取っていないから聞いた話にはなるけど、彼が先日発見した壁画も、正規の大発見と騒がれTVでも取り上げられたぐらいだから、世界的にも功績を挙げている凄い変態………教授らしい。
つまり、ルパン三世に目を付けられて納得ではあったのだ。


「ふぅん。ってことは、警察とかマスコミとかも来るってことだよね。今日から騒がしくなりそう」
「今日からって言うか今朝からかな。もうパパもいると思うし」


ジェシカのパパは警察のお偉いさんだから、現場指揮として来ているんだろう。
私も会ったことがあるけど、見るからに正義感に溢れた人で、ダンディーでめちゃくちゃしっかりしてそうな素敵なパパだった。
だから一見チャラそうなジェシカも、成績優秀だし明るくて面倒見もいいし、正義感が強いんだと思う。


「盗みの予告は明日だけど、今日から考古学研究室は封鎖だし、私達も強制休校かもだって」
「休校?考古学が休講なんじゃなくて?」
「警察以外敷地内から出しちゃうつもりみたい。ルパンは神出鬼没の大泥棒だからね」


スマホを触りながらパパからのメッセージを読んでくれるジェシカは「休校なら何しよ〜」なんて余裕そうだが、対する私は冷や汗だ。
明日休校になんてなってしまったら、レポート提出が間に合わない。
このレポートはただの課題ではなく、ゼミ生代表としてコンクールにまで持ち込まれるものなのである。
休校だから期限を1日後ろ倒し…なんて猶予はないのだ。


「図書館行かなきゃ」
「どうしたのよ名前…そんないきなり。まだご飯残ってるし」
「明日休校ならレポート間に合わないの」
「レポート?今から?しかも図書館、例の考古学研究室の裏だよ?下手したらもう入れないかも…」
「最悪資料貸し出しだけしてくれたらいいし。もしルパンに関して続報あったら教えて!」


残っていたランチプレートを掻き込んで席を立つ。
ジェシカはぽかんとしてるけど、私には死活問題なのだ。
このレポートには私だけじゃなく、ゼミ丸ごと懸かっている。


「…ほんと真面目ちゃんなんだから、根詰めすぎないようにね。あと、ちょっとはハメ外してもいいと思うよ、名前は」
「何それ。でも…ありがと」


急いで図書館まで向かえば、まだ出入りに制限はないようだった。
司書さんも学生もいつも通りだ。


「すみません、これ見たいんですけど…」
「あー、書庫のね。ちょっと待ってて」


持ち出し不可の資料は近くにいた司書さんに出してもらい、残りは検索端末でめぼしいものを掻き集めて、自習用の机に積んでいく。
窓際に設けられた、パーテーションで区切られた此処には私しかいない。
一番奥の児童書がメインのこの部屋にある自習室は、大体空いているので静かに作業するにはもってこいの場所なのだ。
その分図書館入口から遠いし、レポート作成に使用出来る本があるエリアからはかなり離れているわけだけど。

にしてもさっきの司書さん、美人だったな。
見たことない顔だったし、新しく入った人かも。


「…よし」


ジェシカがジェシカパパから流してくれた情報から推測するに、残り時間は多分長くない。
持ち出し不可の資料優先で出来るところまでやって、後は家でやればいっか。
元々ほとんど書き上がっているから、煮詰まらない限り大丈夫だろう。


「何でこんなご飯食べた後って眠くなるんだろ…」


欠伸を殺しながら独り言ちたところで、返事があるはずはない。
うつらうつらと眠気に耐えながら、調べ物をしたりジェシカとメッセージをやり取りしているうちに、いつの間にか私は意識を失ってしまっていた───。


  return 

[1/2]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -