私は別にアルコールに弱いというわけではない。
特段強いというわけでもないけど、自分の限界を知っていると言うか、無茶な飲み方はしないからか皆からは強いと思われているらしい。
だからこんな状態になった私を見かねたジョディとキャメルさんが工藤邸に連れて帰った時、居候の大学院生はさぞ驚いたことだろう。


「盛られた…わけではなさそうだな」
「……ちょっと当たりどころが悪かったと言いますか…」


ぐるぐる回る視界、ぐらぐら揺れる頭、握り締められているかのように苦しい胸、鉛を抱えているかのように重たい胃、覚束ない足元…風邪気味だと自覚があったのにそれなりの量のアルコールを摂取した結果がこれだ。
大きなリビングのソファーに項垂れること数分、自分ではもう動けそうにない。

私を1人にしておくより仲が良い大学院生に預ける方がいいと判断した同僚達に応えるように、沖矢さんもとい赤井さんは水を用意してくれたり体を支えてくれたりと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
今の私から羞恥心は欠落しているが、きっと素面に戻れば後悔の念が押し寄せるのだろう。


「名前」


名前を呼ばれたと同時にグイと腕を引かれたかと思えば、あっという間に体が宙に浮いた。
されるがまま、ただの大学院生とは思えない程逞しい腕に抱えられ2階へと運ばれる。
もう何度もお世話になった、来客用の寝室にだ。
って言うか、何度も世話になってるのおかしいでしょ。


「…すみません、赤井さん」
「少しは回復したようだな」
「多少は…」


胸中でツッコミを入れることが出来るぐらいにはマシになった。
が、渇きはあるし、やはり気持ち悪さは残っているので、ぐったりベッドに横たわる。
冷たいシーツが気持ちいい。
弾力のある寝具に包まれれば、意識は一瞬で飛んでしまいそうだ。


「まだ寝るなよ」


部屋を出て行こうとした赤井さんに、彼の物だろうスウェットを手渡され、着替えられるなら着替えろと言われたので、起き上がるのも億劫だけど着替えることにした。
明日の朝───日付は変わっているので正しくは今日の朝に我に返るまで、色々大目に見てもらいたい。

頭痛やら何やらに耐えながら着替え終わった頃、ちょうど赤井さんが戻ってきた。
水を持ってきてくれたらしい。


「1人で着替えられたようだな」
「私にも一応プライドはあるので…」


サイドチェストに置かれたミネラルウォーターのペットボトルは、封が切られていない新しい物のようだ。
カチッとその蓋を開ける様をぼんやり眺めていたら、次の瞬間には顎を掬われ何故か口づけられていた。


「んん…!?」


唇を割られ、冷たい水が流し込まれる。
嫌でも飲み込まざるをえない状況に彼に縋りつくも、優しく後頭部を撫でられて再度口づけられた。
そのついでと言わんばかりに口内も蹂躙される。


「…っ、ん…ふ…」


それを何度か繰り返した後には、気が付けば舌を絡め取られ、柔らかく食まれていた。
もう飲み干したはずなのに、水音がくちゅくちゅと鼓膜を刺激する。
まともな思考を奪われた体からはどんどん力が抜けていき、ほんの少しの力で容易くシーツに沈んでしまった。


「…悪戯がすぎたな。だがこれなら大人しく眠れるだろう」


いろんな意味で目が冴えてしまった、というツッコミは間違いじゃないはずだ。
ガンガンと痛みを主張していた頭痛が、スッと引いていく。


「もっと…」


上半身を起こした彼のジャケットを掴めば、驚いたように視線が落とされた。
見た目は沖矢さんだけど、その奥の赤井さんがしっかり見て取れる。


「もっと水が飲みたいんですけど…」


ドロリとした思考が頭の中を覆い尽くしていた。
微かに震える指先から順に溶けていく。
そんな浮き沈み激しい感覚に身を任せれば、眠気さえ消えていってしまう。


「…手の掛かるお姫様だ」


赤井さんはそう言ってから、ペットボトルを煽った。

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