これは夢だ。
夢の中で夢だと気付くことがあると言うが、今がまさにそうだ。
夢の中の私は今より遥かに幼く、仲が良いらしい男の子と小さな公園のようなところで遊んでいる。
小学校低学年ぐらいだろうか…ということは日本にいた頃だけど、生憎この公園に見覚えはない。
まぁ夢なんてそんなものよね。


「絵里衣」


誰かが幼い私を呼んだ。
街路樹の傍で何かに夢中だった私は、男の子もほったらかしで声の元へ駆けていく。


「ママ!」


抱き留めてくれたのは母だ。
夢の中ではあるけれど、容姿は大して変わらない気がする。
実際この頃にこの容姿なら年齢不詳にも程があるけど、今私と瓜二つなんて言われているぐらいだから、やっぱり年齢不詳なのだろう。


「今日はパパも一緒よ」
「元気にしてたかい?my princess…今日は昨日より可愛いね」
「昨日パパに会ってないのに分かるの?」
「分かるさ。パパは絵里衣をずっと見ているからね。明日の絵里衣は今日より可愛いよ」


母の後ろから顔を出した父は、私の脇を持って頭上高く掲げた。
元々背が高い父の高い高いは本当に高い。
けど、幼い私は恐怖を感じることもなく楽しそうだ。
久しぶりの父との再会を無邪気に喜んでいる。


「絵里衣ちゃんのお父さん、けーさつかんなんでしょ?」


男の子───名前は全く思い出せないし、顔もぼんやりしているから夢の中だけの知り合いかもしれない───が私達を見上げて言った。


「そうだよ」


私を砂地に下ろし、父はスーツが汚れるのも構わずに膝をついて彼に目線を合わせる。


「じゃあえらいの?」
「んー…どうだろうなぁ。警察官は偉い人じゃなくて、大切な人を守る人だから」


この頃の私は、父がごく普通の警察官だと思っていた。
実際警察官は警察官でも、一般市民と接する機会の多い所謂お巡りさんではなく、少々特殊な警察官だったけれど。
その事実を知るのは、もっと大きくなってアメリカに渡ってからだ。


「絵里衣ちゃんのお父さんは何を守ってるの?」
「愛する妻や絵里衣を守るために、日本という国を守ってるんだよ」


父の言葉が胸に響いたのか、男の子の雰囲気が明るくなった。


「かっけー!ぼくもけーさつかんになる!」
「じゃあわたしもなるー!」


何が『じゃあ』なのか定かではないが、夢の中の私は男の子と手を取り合って将来の夢を誓い合っている。
自分が一番大切な人を守るため、日本を守る警察官になる───私はその後活動拠点を米国に移したため、日本を守る警察官にはなっていないけど、警察組織に所属し違ったかたちで夢を叶えることが出来た。
男の子も夢を叶え、警察官になったのだろうか。


「──君と絵里衣ならきっとなれるわ。ママとしては、もう少しスリリングな職も候補として挙げておきたいところだけど」
「おいおいレベッカ、それだと命がいくつあっても足りないよ」


ところで、この夢は何処までが夢で何処までが記憶なのだろう。
全部夢?
それとも全部過去?








「朝か…」


父と母の顔が見えなくなると同時に、意識が現実に帰ってくる。
まだ起きるには早い。
が、今日は運命の日だ。
打てるだけの布石は打っておかなければならない。

昨晩のミーティングで、今日から私には複数の監視がつくことになっている。
今も外で、ジェイムズ班の何人かが私を見ているはず。
極力外出禁止、常に発信器を携帯して周囲を警戒するよう指示が出ているが、彼ら彼女らは、今日がその日だと知らない。

とうに覚悟は出来ている。
籠の中の鳥にだって、守りたいものはあるのだから。


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