「どーぉ?我が鈴木財閥が総力を上げて建てたベルツリータワーからの眺めは!」
「凄いよ園子!誘ってくれてありがとう!」


かの鈴木財閥のお嬢様である園子ちゃんに連れられ東都ベルツリータワーのオープニングセレモニーにやってきた私は、園子ちゃんや蘭ちゃんは勿論、博士や小学生とは思えない程鋭い哀ちゃんとコナン君にも悟られないよう周囲に目を配った。
まぁ私の正体を知っている人に知られるのは特に大きな問題にはならないけど…歩美ちゃん、光彦君、元太君達3人には絶対に悟られてはいけない。

と言うのも、親友であり所属は違えど仲間でもあるジョディから、本職の方でちょっとした依頼を受けているからだ。
何でもシアトルで起きた狙撃事件の関係者が来日中だったり日本人だったりするらしく、もし姿を見かけることがあれば報告してほしいんだとか。
例の組織が絡んでいないと言っても、死者が出ている事件の関係者なのだから、わざわざ他の民間人を巻き込む必要はない案件だ。


「あんた達も感謝しなさいよー?普通、オープニングセレモニーには関係者以外入れないんだからね?」
「うん!」
「最高だぜ!」
「ありがとうございます!」


ざっと見る限り、写真で見た顔はいないようだ。
こんな所で見かけたら見かけたで、また面倒なことに発展する予感しかしないけどね。

民間人として生活する私は今回の捜査に関わる予定はないが、事の発端の事件の資料を、昔鳥籠内で見た記憶があったりするのである。
記憶なんて所詮曖昧なものだと意見はしたものの、本部が動いている案件だし、民間人としてサポートに回ることは可能だからと協力要請されたわけだ。
こうなれば、FBIとして出来ることはするしかないだろう。

一旦区切りをつけて本職から仮の姿に切り替え、今回此処に招待してくれた園子ちゃんにそっと声をかける。
まだきちんとお礼を言っていなかったからね。


「ごめんね園子ちゃん、部外者の私まで連れてきてもらっちゃって…ありがとう」
「部外者だなんて!そんな寂しいこと言わないで下さいよぉ!」
「そうですよ!確かに絵里衣さんと出会ったのは最近のことかもしれないですけど…でも…でも…!」


日本らしく謙虚に出たのが逆効果だったらしく、園子ちゃんと蘭ちゃんは何故か今にも泣きそうな勢いで迫ってきた。
「こっちは勝手に友達のように思っているから寂しいことは言わないでほしい」とぐっと詰め寄られれば、完全に敗北を認めざるを得ない。
再度詫びと礼を添えると、小さく唸りながらも2人は何とか引き下がってくれた。
が、次の瞬間には、女子高生らしく別の話題が飛んでくる。


「ああもう、やっぱり絵里衣さんが来るならあの2人のどっちかを誘うべきだったわ…!」
「あの2人って…昴さんと安室さん?」
「そうに決まってんじゃない!」


キラキラと瞳を輝かせながら、うっとりと顔の横で両手を合わせた園子ちゃんの隣で、蘭ちゃんはすっかり苦笑いだ。
イケメン大好きな園子ちゃんにとって沖矢さんと安室さんはお気に入りイケメン枠、しかもどうやら私とどちらかを引っ付けたいらしい。
2人共、表では私への関心を誤解されたまま更に悪化させるような言い回ししかしないため、会う度会う度色々な憶測が加速してしまっている。

沖矢さんは沖矢昴の設定上私に気があるし、赤井さんとしても組織に関連する人間である私を遠ざけることは出来ない。
安室さんは………正直まだどちらとも言い切れないところだ。
沖矢さんもとい赤井さんとは違う角度から優しく紳士的で、私に好意を寄せていると女子高生を騒ぎ立てさせる程度には思わせぶりな言動があったことはあった。
けど、彼は此方に何も見せないし、私が一方的にデータで知っている彼はそもそも『安室透』ではない───では、一体どちらが本当の彼なのか。
つまり何にせよ、私と彼らに女子高生の胸をときめかせるような甘い関係は皆無なのである。


「おい!そろそろ帰らねぇか!?」
「何言ってんのお父さん!今上ってきたばっかじゃない!」
「あー!何でまた俺はこんな高い所に来てしまったんだぁ!?」


高所恐怖症らしい毛利探偵の嘆きが後方から聞こえた。
確かこの第一展望台は341M…真下を見れば高所恐怖症でなくても足が竦む程の高さではある。


「お父さんもこっち来なよー!凄くいい眺めだよー!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!俺はもう帰るからな!」
「あ…もう!」
「大体、昔っから馬鹿と何とかは高い所に上りたがるって言ってな!」


絶景を見る余裕のない毛利探偵の足元を指差す女子高生達───あぁ駄目だ。
これ毛利探偵絶対駄目なやつだ。


「そんなこと言って、ホントは怖いんでしょー!」
「バッ…馬鹿野郎!このぐらいの高さ、どうってことはねぇ!」
「じゃあ床見ても平気よねー?」
「え…床…?ゆ、床がぁぁぁぁぁぁ!!!ね、ねぇぇぇぇぇぇ!!!怖い怖い怖い!高いの怖いよぉぉぉぉぉ!!!」


凄まじい声を上げながら、恐るべきスピードで毛利探偵は去っていってしまった。
……いいのだろうか、これで。
皆「またか」って反応だし、放っておくのが正解なのか…。
まぁ何て言うか、微笑ましい光景よね、うん。


「さぁ、ベルツリーからの絶景を楽しみましょう!」
「ねぇ園子、あの建物は?」
「ああ、あのちっちゃいのは浅草スカイコート。鈴木財閥とは関係ないわ。完成しても、精々この第一展望台程度でしょうね」


成程、本当にいい景色だ。
あれがその浅草スカイコートで…此方は浅草側だから、有名な雷門はあっちの方かな。


「じゃあベルツリーの勝ちだな!」
「あったりまえでしょー?」
「あ、ねぇねぇあの川見て!橋がいっぱいかかってるよ!」
「ああ、隅田川だな。向こうの青いのが駒形橋、赤いのが吾妻橋、手前の鉄橋は東都ベルツリーラインだ」


さすがコナン君、各橋の名前までしっかり記憶しているあたり、やはり今日も今日とてcoolだ。
私も日本にいるからには有名所と近辺は押さえておくべきだけど、移動手段に車がない時点で中々厳しい面もあるし…最近は過保護に拍車のかかった沖矢さんのせいで、自由な時間がないっていうのも原因の1つとなってしまっている。


「あ!電車が来ましたよ!」
「かっけーなー!」
「あれ?橋の上で止まっちゃうよ」
「徐行してるだけですよ!橋を渡ったらすぐに浅草駅がありますからね!」


つられてそちらに目を向けると、電車がゆっくり鉄橋を渡っていくところだった。
アメリカに居た頃はこんな風に上から何かを眺めるなんて、PC越しでしかなかったような…。
やっぱり、もう少し日本観光しようかしら。


「あ、そうだ!夏休みの宿題、この東都ベルツリータワーとその周辺のミニチュア模型を作るっていうのはどうですか?」
「おお、すっげーなそれ!」
「面白そう!」


そうこうしているうちに、少年探偵団の夏休みの宿題は、哀ちゃんの許可を得たことによってミニチュア模型作成に決まったようだ。
この辺りは当然ビルだらけ、更に古い街並みも混在しているから、かなり骨が折れそうだけど…子供達はやる気満々である。
可愛いなぁ、ほんと。

と、その時、久しくご無沙汰だった言語が耳に飛び込んできた。


「There! The yellow building!」
「Oh,wow! It's amazing!」
「Oh,I see it. What a lovely building.」


さり気なく目だけで右側を確認すれば、日本人らしき男が外人夫婦に何やら物件をプレゼンしているらしい。
此処からなら近くから遠くまで見渡せるし、オープニングセレモニーに外国人がいてもおかしくはないけど…。


「This building was built 30 years ago. And now,with the completion of the Bell Tree Tower,the view alone is worth four stars. It is definitely a five star property.」
「「Wow!」」


───ちょっと待って、この男…ジョディから送られてきた例の件の1人なんじゃ…?
怪しい臭いしかしない話の内容からしても当たりだろう。

ハンドバックから携帯を抜き出し、素早くリダイヤル。
数コールの内にジョディが出た。


「Hi,ジョディ…例の件、近くに1人いるわ」
『OK…ありがとうエリー。キャメルに替わるから詳細お願い』


運転中だったのか。
携帯を渡されたらしいキャメルさんに続きを伝えようと、標的から目を離し後ろを向いた───次の瞬間。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


パリン、という小さな音の後、蘭ちゃんの悲鳴が響き渡った。
それがしっかり聞こえたのであろう、電話口でキャメルさんとジョディが私を呼びながら騒いでいる。


「狙撃だ!皆伏せろ!!」


ひとまずその場で腰を低くする───博士や子供達は無事、蘭ちゃんと園子ちゃんも大丈夫そうだ。
小学生らしからぬ的確な指示を飛ばしたコナン君と哀ちゃんも、目視では問題ない。

ベルツリー内は一気に混乱の渦となっているが、ターゲットは彼だけだったらしく追撃はないようだ。
胸に一発食らって即死───文句無しで任務完了だろうけど、犯人は何処から狙撃をしてきたのか…。
弾が当たったらしいモニターと窓ガラス、それから遺体の入射角から考えて、私で割り出せる?
いや、ぐだぐだ考えているだけ時間の無駄か…いい加減、電話の向こうで必死なキャメルさんに返事をしないと。


『エリーさん、応答を!』
「ごめんなさい、私は無事よ…でも藤波宏明は胸を一発射抜かれて死んだわ」
『な…っ』
「物凄く大まかな狙撃位置ならすぐ言えるけど…」


ふと視線を逸らせば、コナン君が駆け出すところだった。
そしてそれを追うように影が───って、あのシルエット、まさか…。


『大まかで構いません。日本警察の通信なら把握していますので、そちらからの情報と合わせて追います』
「分かった。後ジョディに伝えてくれる?多分コナン君、犯人追っていったわ」
『了解です』


本職側との通信を終え、やっと肩から力が抜ける。
奴ら絡みではないと言っても、今回は日本では基本的に見ることのない銃……スナイパーライフルが使用されているのだ。
範囲も威力も、この銃を所持しているだけで犯罪になる日本国民にとっては、想像以上のものだろう。
FBIの腕利き狙撃手、赤井さんがいない今、厄介なことにならなければいいけれど…とりあえず私は民間人として加わるしかないようね。


  return  
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -