自分の失態を自分の口から語るのは非常に勇気がいるし、居たたまれない。
でも説明しないわけにもいかず、私は工藤邸で沖矢さんとコナン君を前に洗いざらい記憶を辿った。


「───で、気付いた時には沖矢さんがいました」
「宅配業者と偽って堂々とやってきたと言うことは、奴はずっと家を見張っていたわけか」
「灰原が学校に行くのと博士が誘拐されるのを見てたんだね。絵里衣さんが出てきていないのを知ってたから押し掛けてみたら、案の定目当ての絵里衣さんが出てきて、スタンガンで気絶させて攫ったんだ」


これ以上私の失態を抉るのは勘弁してほしい。
まさか、あれだけ毎日警戒していた一般人に、あんなにあっさり確保されるとは思ってもみなかった。
これでもFBIだと言うのだから、本当に平和ボケにも程がある。


「アメリカの時と言い、私は助けられてばかりですね…」
「そう言えば絵里衣さん、アメリカで奴らに襲われたんだよね?」
「母に助けられたけどね」
「お母さん!?」


フランシス・スコット・キー橋で私に成り代わって川に落ちたのは、私と良く似た容姿を持つ母だ。
そのお陰で私は今、死んだもしくは消息不明になっていると思われる。
当然死体は見付かっていないから、何処まで信憑性があるかと訊かれれば答えられないけど。


「絵里衣さんのお母さんって…」
「SISMIの狼って呼ばれてるわ」
「SISMI…イタリアの諜報員がアメリカに?」
「わざわざ私の部屋に盗聴器まで仕掛けてたみたいだけど…って、SISMIがイタリアの諜報機関ってよく知ってるね」
「や、その……ジョディ先生と知り合ってから、海外の機関について調べてみたんだ…」


FBIと知り合いになったから、海外の機関を調べてみたって?
それでSISMIも知ってるって?
分かってはいたけど、私達との接触は小学生の教育に良くなさ過ぎるわね。


「狼ってイタリアの国獣のイタリアンオオカミのことで、お母さんがイタリアの血筋って意味だと思ってたんだけど、あだ名でもあるんだね」
「そうだけど…イタリアの国獣がイタリアンオオカミってよく知ってるね」


小さな名探偵から乾いた笑いが返ってきた。
ホント何者なのこの子…赤井さんが信頼しちゃってる感もあるし…。
同一人物である沖矢さんは、私達の会話を聞いているのかいないのか、腕を組んだまま何やら考え込んでいる。


「こ、これはTVでやってたんだ…じゃあ、鷲も国獣だけじゃなくあだ名にもなってるの?」
「ええ。ICPOの鷲が父のあだ名」


ICPO、国際刑事警察機構のアメリカンイーグルである父と、SISMI、情報・軍事保安庁のイタリアンオオカミである母。
輝かしいまでの業界の血筋が私に与えたものは、普通とは少し違った人生だった。


「鷲が敵を見つけて、狼が狩る───どうやら、そうして私はずっと守られてきたみたい」


詳しくは分からないけど、幼い頃から何かに狙われていたらしいと言うことは覚えている。
それを父と母が始末してきたと言うことも、私が変に周りを警戒するようになったと言うことも。
ほとんど私が知らないうちに解決していたから、どうにか懐まで転がり込んできた奴だけ対処すれば生き抜くことが出来ていたのだ。
お陰様で、近距離での逃走術だけは生きるためのスキルとして嫌でも身に付いた。

今思えば、この私達を付け狙う奴らは例の組織の人間だったのだろう。
何も知らず平凡な学生生活を送り、FBIと言う監獄に入れられた私は、あまりにも外を知らなすぎたのだ。


「ICPOの鷲とSISMIの狼…両親共に他機関の人間だから、通常なら私はFBIに入れない。でも私を『鳥籠』として囲い、あえてデータベースを見せることによって、何かあった際に真っ先に疑って、それを理由に他国に仕掛けることが出来るようになっているのよ。言わば人質のようなものね」


───ちょっと待って。
囲われ守られぬくぬくと育った私が、何で今また組織に追われているの?
親が親だし、昔は人質、今は精々餌で起爆剤かと思ってたけど…そもそもこの考え自体が間違ってる?
でも、それじゃあ一体何のために何も知らない私を?
…まさか私は、『知らない』のではなく、『覚えていない』だけ?


「絵里衣さん、それってもしかして、FBIって…」
「ところで絵里衣」


私の身の上話にキリがついたところで、黙り込んでいた沖矢さんが漸く顔を上げた。
スッと開かれた翡翠が、射抜くように私に向けられている。


「今日阿笠邸で何をしていた?」
「…調べ物を少々」
「内容は」
「例の赤井秀一の亡霊は、この業界では有名な両親のことだけでなく、今話した私の過去も知っているようでした」
「絵里衣さんも会ったの!?」
「ええ…しっかり言い逃げされたけど」


顔色を変えて問い詰めてくるコナン君とは対照的に、沖矢さんは口元に薄く笑みを浮かべただけだった。
この展開を予想してたとか?
寧ろ、亡霊の正体に辿り着いてる?
まぁ、訊いたところで教えてはくれないだろうけど。
立場が逆なら、私もこの状況では言わないだろうし。


「出来る限り気にかけておくが…念のため極力俺から離れず常に連絡は取れるようにしておいてくれ。くれぐれも勝手な真似はするなよ」
「拒否権は?」
「あると思うか?」
「………努力はします」


一旦脳内をリセットして、小学生とは思えない程大人びた表情で不満そうにしているコナン君の頬をつつくと、キョトンと子供らしい反応が返ってきた。
何を考えているのかは知らないけれど、可愛い顔が台無しよ、小さな名探偵?

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