道端でたまたま出会したバイオリン奏者の絵里衣さんを巻き込んで、蘭、和葉ちゃん、服部、オレの5人でパンケーキ店に行くことになった。
何でもこの間オープンしたばかりのこの店は、女子高生としては行っておかなければいけないスポットなんだとか。
よく分かんねーけど、こーいうの好きだよな、女子って。


「小学生なんやから、オレのことは気にせんとパンケーキ頼んで良かったんやで?コ、ココ、コナン君…?」
「噛むぐらいなら言うなよ…」


空席の都合で蘭達と別のテーブルに分かれることになったオレと服部は、少し離れた席で揃ってコーヒーを啜る。
あっちの3人は、この店自慢のパンケーキを食べながら何やら盛り上がっているらしい。


「何や向こう楽しそぉやのぉ…」
「絵里衣さん聞き上手だからな。年上の同性だし、蘭も和葉ちゃんも色々喋りやすいんじゃねーか?」


何処か不満そうに頬杖をつく服部の視線の先で、蘭と和葉ちゃんはあたふたしたり、絵里衣さんに詰め寄ったりと忙しそうだ。
きっと話術に翻弄されているんだろうけど、もし彼女が奴らの仲間であれば、たったこれだけで凄まじい量の情報が漏洩したはず。
勿論、そんなことしねーって分かってるけどな。


「ぐぁ…あああぁあ…!!!」
「!?」


そんな穏やかな空気を突如ぶち壊したのは、店内に響き渡った悲鳴だった。
服部と蘭達の近くのテーブルに駆けつけ、動揺している店員に警察と救急車を呼ぶよう指示を出す。
どーやら、ただの食中毒じゃねぇみてーだからな…。








不幸中の幸いとでも言えばいいのか、事件自体はあっさり解決となった。
店内に被害者の関係者がいるか調べ、1人1人話を聞けば、あっと言う間に襤褸を出してくれたからだ。
服部とオレがそんな襤褸を見逃すはずはない。

が、しかし。
事態は嫌な方に進んでしまった。
逆上した犯人が、隠し持っていたらしい拳銃を取り出し、自殺すると言い出したのだ。


「ち、近付いたら撃つからな!!撃って俺も死ぬからな!!!」
「銃を下ろしなさい!」


佐藤刑事と高木刑事も銃を構え説得に入るが、すっかり頭に血が上っているらしい男が銃を手放す気配はない。
あんなに震えたまま撃たれたら、何処に当たるか分かんねぇじゃねーか!
とにかく銃を下ろさせて、自殺も発砲も諦めささねーと…。
此処には蘭達だけでなく、まだ一般客が残っているんだからな。
さぁ、どうする…!?


「何だよお前…さっきからコッチ見やがって…!お前も俺を笑うのか!?アイツみたいにお前も!!!」
「すみません、まだ死にたくないから貴方の動きを見ていただけで…」


犯人の関心が、傍らにいた絵里衣さんに向いた。
銃口を向けられても動揺を見せないのはさすがFBIだが、彼女は表に出る捜査官ではなく人事部で、しかも今は民間人。
この間の一件もあるから、ある程度体術も出来るんだろうけど、何処までやってくれるのか、また何処まで出来るのかは正直未知数だ。


「おい工藤…あの姉ちゃん、えらい落ち着いてはおるけど…ヤバいんとちゃうか」
「ああ…ヤバいぜ、かなり」


万が一あの人に何かあったら、な。

両手を顔の横まで上げた絵里衣さんは、男の前に一歩歩み出る。
全く動じた様子を見せない凛とした表情がそのままと言うことは、何か仕掛ける気か?
その機会を逃さないよう、オレは腕時計に手を伸ばした。
隣で服部も身構える。

絵里衣さんが集中しているのが此処からでも分かるぐらい、張り詰めた緊張感。
いや、ちょっと待て。
あの銃、撃鉄が起きてない…!?
シングルアクションなんだから、あのままで弾が出るわけ───だから仕掛けにいったのか!


「勘違いさせたのならごめんなさい。でも、そのままじゃ撃てないと思うわ」


次の瞬間、瞬きした隙に男の手にあった拳銃が絵里衣さんの手の中に移動していた。
しかも、その早業に男が呆気に取られているうちにマガジンまで抜いている。
これで犯人は完全に丸裸だ。


「はぁぁぁぁぁぁあ!!!」


トドメに、後ろから飛び出た蘭と和葉ちゃんから重い一撃を食らった男が確保されて、事件は一件落着となったが───絵里衣さんの動きを見た服部は興味津々といった様子で彼女を観察している。
一応探偵のコイツなら、絵里衣さんが民間人だっつっても信じねぇだろーし、むしろ容赦なく首を突っ込んで調べかねない。
絵里衣さんには悪いが、白状しておく方が賢明だろう。


「何やねん工藤、あの姉ちゃん…まさかホンマにバイオリン奏者っちゅうわけやないやろ?」
「バイオリン奏者はバイオリン奏者だよ。今の姿はな」
「ただの演奏家が怯えもせんと拳銃持った男と対峙して、挙げ句武器取り上げよるっちゅうんか?」


TVの真似をしたら上手くいったのだ、なんてしらを切る絵里衣さんを、蘭や佐藤刑事達が取り囲む。
「心配した」だの「危険だ」だの色々な言葉を浴びせられている彼女は、先程一瞬放ったプレッシャーをすっかり仕舞い込み、いつも通り穏やかな笑みで対応しているではないか。
これで押し通して自分のスキルを隠しちまうつもりなんだろーけど…肝が据わってるっつーか、ホント有り得ねーだろこの人。
まさか此処までとは想定外だ。


「…訳有りのFBIだよ。あの例の組織に追われてるから、民間人として生活してるんだ」
「FBI…!せやから護身術も出来るし、銃にも詳しかったっちゅうわけか!」
「ああ。そう言うわけだから、オメーは知らねーことにしとけよ?絵里衣さんの素性は本当に一部の人しか知らねーんだから」
「分かっとる分かっとる」


じと、と念を押すと、服部は片手をひらひらさせながら頷いてみせた。
まぁコイツに限って余計なことはしねーだろうけど、絵里衣さんに不利になるようなことをするのはマジでやめてくれ。
じゃねーとオレが怒られるんだ。
彼女をそれは大事にしている、あの人に。


「せやけど、あの姉ちゃん…」
「あ?絵里衣さんが何だよ」
「…いや、ちょっと興味あるだけや」
「はぁ?」


新しい玩具を買ってもらった子供みてーに爛々としやがって…何なんだ一体。

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