ギリギリ先手を打って杯戸公園での狙撃は阻止出来たけど、奴らの元に発信器と盗聴器がある状況は変わっていない。
ジョディ先生と奴らの追跡を継続することになったオレだが、まさか運転手───ジョディ先生の言うボスが、あのパンダカーの時のオッサンだったとは…。


「ごめんなさいジェイムズ…もしかしたら彼らの視界にエリーが入ってしまったかも…」
「何?」
「彼女、そろそろ本当にバイオリンが弾けないとマズいからって言って、今日杯戸公園で練習する予定だったんです」
「連絡は?」
「何度か電話してるんですが、留守電で…」
「電源が入っているなら少なくとも命は無事だろう。それにもしそんな話が出ていれば、音声を聞いている彼が教えてくれるだろうしね」


確かに今のところ、絵里衣さんらしき話題は一切上がっていない。
奴らの手に落ちた可能性は限りなく0に近いはずだ。

…待てよ。
もしかすると今、謎解きをする絶好のチャンスじゃねーか?
何せ、彼女の親友だけでなく、あの発言をした本人が此処にいるんだからな。


「…cage」


そっと吐き出した魔法の単語1つで、2人の表情が面白い程変わった。
助手席から振り返ったジョディ先生は驚いた顔をしていたものの、盗聴器から聞こえたのではないと付け足せば「エリーに聞いたのね」と肩の力を抜く。
彼女から聞いていないから、訊いているのさ。


「そう言えば斎藤君は、君には話すと言っていたからね…」
「ねえ、cageって何?何で絵里衣さんはprincessなの?」


まさか今更、刑事だなんて誤魔化したりしないだろ?

黙ってしまったジョディ先生が、ちらりと運転席に視線をやる。
こくりと首が振られたから、どうやら許可は下りたらしい。


「cageは彼女の所属の通称よ。簡単に言ってしまえば、FBIが所有するあらゆる情報を管理するデータベースの管理がエリーの仕事なの。扱う情報が情報だからこの部署の存在自体一部の人間しか知らないし、データベースは厳重に隔離されているし、情報漏洩の観点から所属になったメンバーは名簿から名前も消されるわ」


成程、まさにcageってわけか。
ここまで厳重管理ってことは、FBIのデータはここで統括されているんだろう。


「さっき通称と言ったけど、正確には、エリーを含む担当者や、部署や、データベースがある執務室のことを揶揄した通称がcageなの。日本語では『鳥籠』が一番しっくりくるかしら」
「その存在を知る人の皮肉なんだね。だから『鳥籠の姫』だったんだ」
「いや…princessはまた別のアプローチさ」


紅一点の意味じゃないのか…。
ミラー越しに会話に加わったジェイムズさんの口から出たのは、正直予想外の繋がりだった。


「組織が彼女につけた呼び名だからね」
「え…?」
「数ヶ月前、変装した組織の人間が彼女と接触したらしくてね。その時に『お姫様』と呼ばれたのだと、当時組織のことを知らなかった彼女がジョディ君に漏らしたんだ」
「それを聞いた時、ちょうどシュウも本部にいてね…それからよ、人事部で鳥籠のはずのエリーが此方に関わるようになったのは」
「そうだったんだ…。じゃあもしボクが絵里衣さんの周りで怪しい奴を見かけたら、すぐジョディ先生に連絡するね」
「ええ…お願いよ、コナン君。あの子は大事な仲間で…親友だから」


これで繋がった…!
いや、まだ霧がかかっている箇所もあるが、彼女の言っていた銃殺事件が始まった時期と目的、日本に来た訳、フェイクの理由、オレと灰原にあいつ等を託した意図は繋がった。
どうやら彼女は相当頭が切れる分、目標達成のためならリスクも怖れないタイプらしい。

最大の問題は組織が彼女を追う理由だが───一番想像したくねーのはプリンセスがコードネームだった場合だ。
ベルモットやジンを使ったカクテルに、プリンセスと名の付くものがある。
もし、彼女が本当は組織の人間で、FBIに潜入しているのだとすれば最悪の事態にまで発展するだろう。
だが、そうだとすれば今の段階でメリットがない。
あの銃殺事件もそうだが、彼女が組織からのスパイなら、今までに起きた事件や行動にメリットがないのだ。
だからもし『敵』だったとしても、彼女は組織の『味方』じゃない───これが分かれば十分だ。
灰原にも教えてやんねーと。


「そういえば、シュウの居場所わかります?」
「ああ…赤井君なら私も捜しているところだよ…。この状況は彼に説明したんだろ?」
「ええ…この子が取り付けた発信器と盗聴器の事も…。そうしたら電話口で、そうか…って答えたっきり、音信不通になってしまって…」


さて、懸念がちょっと減ったことだし、今はこの土門さん殺害阻止に集中しますか。


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