あれからも父の消息を追い続けているが、何も出てこない。
可能性が高いところから潜り込んでいるのに、出てこないなんてもう死んでるんじゃないか。
「いつ死ぬか分からない危険と隣り合わせな仕事だ」って、まだ幼い私に言い聞かせてたんだから、本人も長く生きられないって悟ってたんだろうし。


「はあ…」


家でずっとPCと向かい合っていても疲れるだけだから、気晴らしに公園に来てみたというのに、脳内を占めるのはやっぱり奴らのことだった。
いくら記憶を掘り起こしても、私が組織と接触した覚えはない。
少なくとも不思議な来訪者はなかったはずだ。
元々2人共家にいないことの方が多かったから、来訪者なんて宅配業者ぐらいなものだし。
もし宅配業者が奴らの一員だったなら、私を見つけるのにこんなに手間取らないだろう。
住所も顔も声もバレてるんだから、いくらでも追う方法はある。

にしても、天気予報は雨、こんな日にわざわざ杯戸公園にまで楽器を持ってくるなんて、私は馬鹿なのか。
しかも今日の楽器はフェイクの本物じゃなくて、ちゃんと本物の本物───雨は御法度である。

曇天を見上げながら再度溜め息を吐けば、ポケットに入れていた携帯が振動し始めた。
番号を見ると、表示された数字はこまめに生存確認をしてくれる彼の番号と一致する。


『今何処にいる?』
「杯戸公園で民間人やってますけど…」
『今すぐ此方へ来い。今すぐだ』


此方って何処?
と思っていたら、すぐメールが送られてきた。
せっかく小さな探偵さん達に会わないように遠出したのに、今すぐ家の方に戻れとか───組織絡みで何かあったんだろう。
潔く大きめの楽器ケースを肩にかけ、私は杯戸公園を後にした。








「早かったな」
「今すぐ来いって言ったの誰ですか…」


交通機関フル活用でメールに書かれた住所に向かい指定通りビルの屋上に行けば、赤井さんが戦闘態勢で待機していた。
ビルの縁に肘を置き、ライフル片手に煙草を吸っている彼は一仕事する気満々だ。


「背をつけて座っていろ」


顎で彼の傍らを示される。
楽器ケースは寝かせて、言われた通り彼とは逆にビルの壁に背を預ける形で腰を下ろした。
こうすれば、私はこの屋上に繋がる唯一の階段を見張れるし、向こうからの銃弾も壁に阻まれる。
そもそも、向こうからは私がいることすら見えないはずだけど。
赤井さんからしても、視界に入れておきたい私を安全に且つ自分の背後を見張らす要員として利用出来るし、その結果狙撃にも集中出来るのだからオイシイことばかりなのだろう。
普段は足が着かないように遠ざけるくせに、いざ何かある時は近くに来させるなんて本当にズルい人だ。


「後ろは任せたぞ」
「見たくなくても視界に入るので、ご心配なく。ところで、そろそろ状況を説明していただけますか?」


意地悪く笑った赤井さんは、煙草を揉み消すとスコープを覗き込んだ。


「手違いで、毛利小五郎が奴らの仲間に発信器と盗聴器を仕掛けたと思われているらしい」
「え…?」
「更に、奴らは元々今日ある人物の狙撃を計画していたらしくてな…ジェイムズやジョディ、それからお前もお気に入りのボウヤが阻止に動いているようだが、最終的に発信器と盗聴器に気付いた奴らはあの探偵事務所を……毛利小五郎を狙撃するだろう」


想像以上に事態は深刻だったようだ。
どんな手違いか知らないが、恐らく組織に深く関わっていないであろう毛利探偵に火の粉が降りかかり、死に直面しているのは理解出来た。
だから赤井さんは早々に此処を陣取って待機しているわけね…。
この人の狙撃の腕前は、国外に轟いている程だし。


「まぁ、コナン君も噛んでるなら何とかなるか…」
「えらく評価するんだな」
「彼、探偵らしいので」


未解決のままサヨナラはさせてくれないんですって。
なんて言ったら後々ややこしくなりそうだから、やめておこう。


「…予想通り、皆揃って来たぞ」
「そんなに大人数なんですか?」
「キャンティ、コルン、ウォッカ、ベルモット……そして、ジン」


それはそれは楽しそうな赤井さんは、構え直したライフルを覗き込みながら教えてくれた。
どうせ皆真っ黒なんだろうけど、この町中をその人数で移動って目立たなかったのだろうか。

そうこうしているうちに、赤井さんのライフルが静かに唸った。
弾を装填し、続けてもう一発。


「やっと会えたな…愛しい愛しい…宿敵さん?」


私の背後の壁に何か当たった音がする。
向こうが撃ち返してきたのだろうが、やはり精度が全然違うらしい。
私からは赤井さんの弾がどうなったのかは見えないけれど、彼はずっと楽しそうだから、当てようと思った場所に正確に当てているはずだ。

更に二発撃ち込んでから、赤井さんはライフルを下ろした。


「とりあえずのミッションはクリア…かな」


奴らが撤収したのだろう、私も立ち上がって楽器ケースを肩に背負う。
当然だが、この屋上に誰かが向かってくる気配はなかったし、オールクリアだ。
あくまで此処だけは、だけれど。
FBIだと顔も割れてがっつり警戒されている彼が現れたという事実は、奴らにかなりのダメージを与えることが出来るらしい。
今まで一体何をしてきたんだ、この人。


「家まで送ろう。今日はもう外に出るなよ」
「それが賢明ですよね…」
「そう拗ねるな」


拗ねているつもりはないけど…そう見えるのか。
まぁ、どっちみち今日みたいな日に本物の楽器を使うのは好ましくなかったし、また黙々とPCに向かうとしますかね。
これ以上時間を取られるのはスマートではないから、父の消息が分からないのなら母の行動を追う方がいいかもしれない。
ここから奴らの痕跡が少しでも見つかればいいけど、見つからなかった時は、父の存在ごと疑ってかからなくてはならなくなるのが厄介だ。


「ところで斎藤…その楽器ケースには何が入っているんだ?」


ビルの階段を下りようとした時に飛んできた、予期せぬ問いに思わず足を止める。
私を見据える赤井さんの表情は、限りなく無で読み取れない。


「何言ってるんですか赤井さん…楽器ケースなんだから楽器に決まってるじゃないですか」


愚問だわ、本当に。



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