2―Aの5限の授業は古典だ。

通称おじいちゃん先生による、ゆったりすぎる授業は、昼食を終えたばかりの学生達には素晴らしいまでの子守歌だった。

しかも教師としての経験は勿論、人生の大先輩でもあるこの教師は"授業の邪魔さえしなければ聞くも聞かぬも自由"というスタイルの教師なのである。

つまり学生達にとって、唯一の睡眠学習公認授業なのだ。

今日も今日とて、例の如くクラスのほとんどが机に顔を突っ伏しているが、名前は欠伸を噛み殺しながらも板書に勤しんでいた。

時々眠たさのあまり字が踊ってしまうが、何とか授業を理解し食らいつこうとしている。

と、そんな彼女の集中力を削ぐように、静かな教室内に小さな紙擦れの音が響いた。

広げたノートの上に転がったのは、隣の席の友人が投げたらしいメモ用紙。

ぐしゃぐしゃに丸められた流行りのゆるキャラのデザインのそれには、

"伊月君、寝顔もイケメンとかケンカ売ってる?"

と丸っこい字が綴られていた。

名前は逆隣へ視線を巡らせる。

斜め1つ前の席が話題に上がった伊月の席だが、彼は端正な顔を此方に向けて眠っているようだった。

彼の所属する誠凛高校男子バスケットボール部の練習は、けして楽なものではない。

そもそも"本気"の運動部で練習が楽な部があるはずはないが、朝・昼・夜関係なく厳しい練習が行われている。

特にここ数日、立て続けに練習試合も組み込まれていたせいか、部員達は心身共に疲れ切っているようだった。

それを裏付けるように、伊月はその驚く程の視野を誇る双眸を閉じ、深い眠りに落ちているようである。

簡単にその事情を可愛らしい文字の下へと認めた名前は、教師の目を盗んでメモ用紙を持ち主へと放り投げた。

すると余程退屈なのか、すぐに返事が返ってくる。


"なるほどね。
で、名前はどうなのよ。
アンタが休み時間声かけてあげれば喜ぶんじゃない?"


カントクより、部員より、マネージャーである自分は負担が少ない。

いくら事情を分かっているとは言っても、そんな自分が声をかけるぐらいで、彼が喜ぶのだろうか。

ふと過ぎった問いは、黒板に増えていく文字と同じように、ぐにゃぐにゃと形を崩していった。

見えないふりをしているのか。

はたまた見ないふりをしているのか。

それとも本当に見えていないのか。

悩んだ末名前が返した答えは、ある意味で"彼女らしい"酷く単調な承諾だった。


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