俺の好きな人は、校内1の有名人と言われている名字名前だ。

校内どころか何故か他校にまで名が知れ渡ってるせいでライバルは多いけど、俺だってそう簡単に諦めるつもりはない。

気立てが良くて、雰囲気が優しくてあったかくて、勉強も運動も一生懸命な姿が格好良くもあり可愛くもある。

正直時々ついていけないぐらいの天然っぷりを発揮することもあるけど、それも含めて名字だし、そんな名字だからこそ惹かれたんだろうなって。

部活に対する姿勢も吃驚するぐらい真面目で、向上心って言えばいいのか、とにかくあんなに真っ直ぐ真面目に真剣に物事に打ち込めるのは凄いと思った。

そんな俺の最大のライバルはバスケ───ではなく、天然策士な木吉鉄平。

周りからは、"名字の旦那"と揶揄されている奴である。

木吉とは去年同じクラスで一緒に騒いだ仲だし、男の俺から見てもカッコいい奴だ。

だからこそああいうの見ちまうとさ───あぁもう、やってらんねーよマジで。










それはこの間の日曜日、たまたまウチの部が午前練で終わった日のことだ。

皆と騒ぐのもそこそこに、家に向かってたら公園で……あー、そうそう駅と俺ん家の間の公園。

あのデカいマンションの横の、やたら開けてる公園な。

そこにいたんだよ、木吉と名字が。

子連れで。

昼飯食ってねーのに何か吐くかと思ったわ。

あの子5歳ぐらいなのかなー、多分。

ケンタって呼ばれてたその少年を肩車する木吉と、その横で微笑む名字って構図、もう完全にアレだろ?

何爽やかな夫婦の図見せてくれてんの?って。

俺のハート粉々だっつーの。


「あら、ケンタくん。今日は鉄平くんと名前ちゃんと一緒なのね」

「うん!」

「そっかー。もうすぐお兄ちゃんなんだし、2人の言うことちゃんと聞くんだよ」


さすが住宅街の真ん中のローカルな公園っつーか、ケンタの事情を知ってるらしい、向こうのコンビニの横の整骨院の奥さんが買い物袋片手にやってきた。

どうやらケンタはもうすぐ妹か弟が出来るらしい。

で、親御さんが留守にしがちだから、どういうわけか知り合いな木吉と名字が面倒見てたってわけだ。


「ケンタくんはもう十分カッコいいお兄ちゃんだもんね」

「ほんと?」


名字がにこにこしながら褒めると、ケンタの表情が分かりやすすぎるぐらいに明るくなった。

素直な子供も可愛いけど、にこにこしてる名字も可愛いなオイ。


「おれ、もうおにいちゃん?」

「もうすぐお兄ちゃんだな」

「てっぺーよりも?」

「そーだな」

「おりる!」


きらきら瞳を輝かせるケンタは木吉の言葉に自信がついたのか、肩車を降りると今度は名字の前に仁王立ちになった。

当然名字は目線を合わすためにしゃがんだわけだが───最近の子供こえーよ。


「なまえちゃん、おれとけっこんしてください!」


正真正銘タックルとプロポーズのWパンチを食らった名字は、受け止めきれずに尻餅。

木吉がケンタを剥がそうとするが、ケンタは嫌々と名字の首に縋りついている。


「やだ!おれ、てっぺーがなまえちゃんすきなのしってるんだからな!おれがはなれたらてっぺーがぎゅってするんだろ!」


俺此処に混ざる勇気ねぇわ…。


「名前が好きなら、名前を困らせたらカッコ悪いぞ」


余裕綽々な木吉がケンタの脇に手を入れ持ち上げる。

不満げなケンタがじたばた足掻いている間に、名字も苦笑しながら起き上がった。

かと思ったら、今度は名字からケンタに突進しやがった。


「うわっ」

「ありがとう。ケンタくんがもうちょっと大きくなって、そのときまだ私を好きだって思ってくれてたなら、もう一度言ってくれる?」

「てっぺーより?」

「鉄平より。毎日ご飯をしっかり食べて、しっかり遊んで、しっかり寝て、元気でカッコいいお兄ちゃんでいれば鉄平なんかすぐだよ」

「がんばる!」


散々な言われようだが、名字に抱きしめられたままのケンタはやる気が出たのかニコニコキラキラご機嫌さんだ。

まぁ名字にあぁ言われれば、当分は素直に過ごすだろうな、あの子。


「鉄平なんか、か。オレも頑張らないとな」

「これ以上大きくなるの?」


動揺露わな名字ではあるが、第三者の俺からすれば、それがそういう意味ではないのはすぐ察しがつく。


「そーだな。こればっかりは子供だからって容赦はなしだ」

「じゃあ鉄平が遠くなっちゃうね。私まだ背伸びるかな?」

「なまえちゃんもぎゅうにゅうのめばいいんだよ」

「あと、日光と睡眠?」


うーんと眉根を寄せて、わりとガチで悩み出した名字。

何かズレてるぞってツッコみたいけど、そしたらきょとん顔が返ってくるんだろうな。


「……こーすれば問題ないさ」


木吉の大きな手がケンタの頭を撫でたかと思うと、ついでと言わんばかりに目元を覆った。

そしてもう片手で名字の頭を易々支えて、有無を言わせぬ様子で顔を寄せる。

こんなときに真剣な顔ってセコくね?

照れて木吉を押し返す名字も頬真っ赤にしてさ、反則だっつーの。

完全今晩2人目コースじゃねーか。









つーわけで、帰宅前に盗み見のかたちですげーもん見ちまったわけ。

やっぱ簡単に諦めらんねーけど、アイツらのガチ結婚式に呼ばれたらガチ泣きでガチ喜びする自信あるぜ、俺。

ま、名字を泣かすようなことしたらソッコー木吉派から伊月派に乗り換えるから、そこんとこは宜しく!


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